ANTHRAX
ANTHRAXの詳しいBiographyと全作品のディスコグラフィ。アルバムごとの個別ページも掲載するMETAL BOOSTのアーティストページ。
Biography
アンスラックス (ANTHRAX)
バイオグラフィー、ディスコグラフィー、文化的影響
1. ニューヨーク・スラッシュの特異点
アンスラックス (ANTHRAX)は、1981年にアメリカ合衆国ニューヨーク州 (New York) で結成されたヘヴィメタル・バンドであり、メタリカ (Metallica)、メガデス (Megadeth)、スレイヤー (Slayer)と並び、スラッシュメタル 「ビッグ・フォー (The Big 4)」の一角を占める最重要グループである。ANTHRAXのキャリアは40年以上に及び、全世界で1000万枚以上のアルバムセールスを記録しているが、その功績は単なる商業的成功にとどまらない。
他の「ビッグ・フォー」が主にカリフォルニア州 (California) のベイエリア (Bay Area) やロサンゼルス (Los Angeles) を拠点としていたのに対し、アンスラックスは東海岸のニューヨーク・シティ (New York City) を出自としている。この地理的要因はANTHRAXの音楽性に決定的な影響を与えた。ANTHRAXはベイエリア・スラッシュ特有のスピードと技巧を共有しながらも、ニューヨークのハードコア・パンク (Hardcore Punk) シーンが持つ切迫感、ストリート・カルチャー、そして特有のユーモア感覚を融合させることで、独自の「クロスオーバー・スラッシュ (Crossover Thrash)」 サウンドを確立した。
さらに、ANTHRAXはジャンルの境界を破壊する先駆者でもあった。1987年の「I'm the Man」や1991年のパブリック・エナミー (Public Enemy) とのコラボレーション 「Bring the Noise」に見られるように、ラップとメタルの融合をいち早く試み、後のニュー・メタル (Nu-Metal) ムーブメントへの道を切り拓いた功績は計り知れない。
2. 第1章: 黎明期と『Fistful of Metal』の衝撃 (1981-1984)
2.1 結成と初期の混乱
アンスラックスの歴史は、1981年7月18日、ニューヨークのクイーンズ (Queens) にある高校の同級生であったギタリストのスコット・イアン (Scott Ian) とベーシストのダン・リルカー (Dan Lilker) によって幕を開けた。バンド名「ANTHRAX (炭疽菌)」は、スコット・イアンが学校の生物学の教科書で見つけた用語であり、「邪悪で、かつ誰もが記憶に残る響き」であるとして採用された。
初期のラインナップは極めて流動的であり、多くのメンバーが短期間で入れ替わった。当初、スコット・イアンのリズムギターとダン・リルカーのベースを軸に活動を開始したが、ボーカリストやドラマーの定着には時間を要した。1982年9月、彼らはニール・タービン (Neil Turbin) をボーカルに迎え、ニューヨークのクラブ 「グレート・ギルダースリーヴス (Great Gildersleeves)」で彼との初ライブを行った。
1983年、バンドにとって決定的な出会いが訪れる。ドラマーのグレッグ・デアンジェロ (Greg D'Angelo)が脱退した後、スコット・イアンは数ヶ月にわたる勧誘の末、チャーリー・ベナンテ (Charlie Benante) をドラマーとして迎え入れることに成功した。チャーリーの加入は、アンスラックスのサウンドに革命をもたらした。彼の超高速のツーバス (ダブル・バス・ドラム)奏法と、正確無比なリズム感は、バンドが求めていたスピードとアグレッションを具現化する最後のピースであった。また、リードギタリストとしてダン・スピッツ (Dan Spitz) もこの時期に加入し、バンドの「クラシック・ラインナップ」の原型が形成されつつあった。
2.2 デビュー・アルバム 『Fistful of Metal』
1984年1月、バンドはジョン・ザズーラ (Jon Zazula) が設立したメガフォース・レコード (Megaforce Records) から、デビュー・アルバム『フィストフル・オブ・メタル (Fistful of Metal)』をリリースした。
| トラックリスト (Tracklist) | 考察 (Analysis) |
|---|---|
| 1. Deathrider | 冒頭から疾走するスピード・メタル・ナンバー。 |
| 2. Metal Thrashing Mad | バンドの初期アンセム。NWOBHMの影響が色濃い。 |
| 3. I'm Eighteen | アリス・クーパー (Alice Cooper)のカバー。 |
| 4. Panic | 初期のパンク的衝動を残す楽曲。 |
| 5. Subjugator | 重厚なリフが特徴。 |
| 6. Soldiers of Metal | メタルへの忠誠を歌う正統派アンセム。 |
| 7. Death from Above | 戦闘機をテーマにした攻撃的な曲。 |
| 8. ANTHRAX | バンド名を冠したインストゥルメンタルに近い楽曲。 |
| 9. Across the River | インストゥルメンタル。 |
| 10. Howling Furies | 初期のダークな雰囲気を漂わせる。 |
このアルバムは、ジューダス・プリースト (Judas Priest) やアイアン・メイデン (Iron Maiden) といったNWOBHM (New Wave of British Heavy Metal) の影響を強く受けつつも、アメリカのバンドらしい粗削りなスピード感を前面に押し出していた。「Metal Thrashing Mad」は、当時のスラッシュメタル・ムーブメントの黎明期における象徴的な楽曲の一つとして評価されている。しかし、ニール・タービンのハイトーン・ボーカルは強力であったものの、バンド内での人間関係の軋轢は限界に達していた。
2.3 メンバーチェンジの激震
デビュー・アルバムのリリース後、1984年8月にニール・タービンは個人的な問題とバンド内の対立により解雇された。さらに、創設メンバーであるダン・リルカーもバンドを去ることとなった。リルカーの脱退は、彼のアグレッシブすぎるベース・プレイや練習に対する姿勢が、当時のバンドが目指していたプロフェッショナリズムと合致しなかったためとも言われているが、彼はその後ニュークリア・アソルト (Nuclear Assault) やブルータル・トゥルース (Brutal Truth)を結成し、スラッシュおよびグラインドコア (Grindcore) シーンで伝説的な地位を築くこととなる。
リルカーの後任として、チャーリー・ベナンテの甥であり、それまでバンドのローディーを務めていたフランク・ベロ (Frank Bello) がベーシストとして正式加入した。フランクの加入により、スコット・イアン (ギター)、チャーリー・ベナンテ(ドラム)、フランク・ベロ (ベース)という、アンスラックスの核となる強力なリズム隊が完成した。
3. 第2章: ジョーイ・ベラドナ時代と黄金期の到来 (1985-1990)
3.1 ジョーイ・ベラドナの加入と 『Spreading the Disease』
ニール・タービンの後任を探していたバンドは、1984年、ジョーイ・ベラドナ (Joey Belladonna) を新たなリード・ボーカリストとして迎え入れた。ジョーイは元々、ジャーニー (Journey) やフォリナー (Foreigner) といったAORやクラシック・ロックを歌いこなすバックグラウンドを持っており、典型的なスラッシュ・メタルの「叫ぶ」 スタイルとは一線を画していた。しかし、彼の伸びやかでメロディアスな歌声は、アンスラックスの攻撃的なリフと奇跡的な化学反応を起こし、バンドに独自のアイデンティティを与えた。
1985年10月、2ndアルバム 『狂気のスラッシュ感染 (Spreading the Disease)』をリリース。メジャー・レーベルであるアイランド・レコード (Island Records) との提携により、バンドの知名度は世界規模へと拡大した。
- 代表曲「Madhouse」: この曲のミュージックビデオは、精神病院を舞台にしたコミカルかつカオティックな内容で、MTVでの放送が一時制限されるなどの話題を呼んだが、それがかえってバンドの人気を煽ることとなった。
- 音楽的進化: 「A.I.R.」 や 「Gung-Ho」 といった楽曲では、より複雑な構成とスピードが追求され、スラッシュメタルの様式美が完成されつつあった。
3.2 S.O.D.の影響とクロスオーバー
この時期、スコット・イアンとチャーリー・ベナンテは、元メンバーのダン・リルカー、そしてビリー・ミラノ (Billy Milano) と共にサイド・プロジェクト「ストームトゥルーパーズ・オブ・デス (S.O.D. - Stormtroopers of Death)」を結成し、アルバム 『Speak English or Die』をリリースした。このプロジェクトは、ハードコア・パンクの短く激しい曲調とメタルのリフを融合させたもので、アンスラックス本体にも多大な影響を与えた。S.O.D.での実験を経て、アンスラックスのリズムはよりタイトになり、「モッシュ (Mosh)」を誘発するグルーヴが強化された。
3.3 最高傑作『Among the Living』 (1987)
1987年、バンドはキャリアの頂点とも言える3rdアルバム『アマング・ザ・リビング (Among the Living)』を発表した。この作品は、バンドのトレードマークであるバミューダパンツ (Jams) やスケートボードといったストリート・ファッションと共に、ANTHRAXをスラッシュメタル界のアイコンへと押し上げた。
| 特徴的なテーマ | 詳細 (Details) |
|---|---|
| ポップカルチャーの引用 | タイトル曲「Among the Living」 はスティーヴン・キング (Stephen King) の小説『ザ・スタンド (The Stand)』に基づいている。「Skeletons in the Closet」 もキングの『ゴールデンボーイ (Apt Pupil)』が題材である。 |
| ジャッジ・ドレッド | 楽曲「I Am the Law」は、イギリスのコミック『ジャッジ・ドレッド (Judge Dredd)』へのオマージュであり、重厚なミッドテンポのリフが支配するライブの定番曲となった。 |
| 社会的メッセージ | 「Indians」ではネイティブ・アメリカンの苦難を扱い、「Caught in a Mosh」では日常のストレスやプレッシャーをモッシュピットで発散する若者の心情を代弁した。 |
このアルバムに伴うツアーで、ANTHRAXのステージ・パフォーマンス(特にスコット・イアンとフランク・ベロがステージ上を走り回る「ウォードダンス (War Dance)」)は伝説となった。
3.4 『State of Euphoria』 と 『Persistence of Time』の深化
1988年の『ステート・オブ・ユーフォリア (State of Euphoria)』は、前作の成功を受けてリリースされたが、バンド自身は後に「制作期間が不十分だった」と回顧している。それでも、フランスのバンド「トラスト (Trust)」のカバー曲 「Antisocial」は大ヒットし、MTVでの頻繁なオンエアを通じてバンドの代表曲となった。
続く1990年の『パーシステンス・オブ・タイム (Persistence of Time)』では、バンドはシリアスな方向転換を図った。歌詞は社会の腐敗、人種差別、時間への強迫観念といった重いテーマを扱い、楽曲も長尺でプログレッシブな展開を見せた。
- 「Got the Time」: ジョー・ジャクソン (Joe Jackson) のパンク・ナンバーを高速でカバーし、ベースラインが際立つ名演となった。
- スタジオ火災: このアルバムの制作中、リハーサル・スタジオが火災に見舞われ、多額の機材を失うという悲劇があったが、その逆境がアルバムのダークで攻撃的なトーンに反映されたと言われている。
4. 第3章: ジャンルの破壊とラップ・メタルの発明 (1987-1991)
アンスラックスを他のメタル・バンドと区別する最大の要因は、ヒップホップ (Hip-Hop) の深い理解と、それを自らの音楽に取り入れる柔軟性であった。
4.1 「I'm the Man」の衝撃 (1987)
EP『アイム・ザ・マン (I'm the Man)』に収録されたタイトル曲は、ロック・バンドが本格的にラップを取り入れた最初期の例の一つである。ビースティ・ボーイズ (Beastie Boys)へのオマージュとして作られたこの曲は、ユダヤ民謡「ハバ・ナギラ (Hava Nagila)」のメロディを引用しつつ、スコット・イアンたちがコミカルにラップをする内容であった。当初はジョークとして始まったものが、結果としてラップとメタルの親和性を証明することとなり、後のミクスチャー・ロックの礎となった。
4.2 パブリック・エナミーとの共闘「Bring the Noise」 (1991)
1991年、コンピレーション・アルバム『アタック・オブ・ザ・キラー・ビーズ (Attack of the Killer B's)』において、アンスラックスは社会派ヒップホップ・グループ、パブリック・エナミー (Public Enemy) とコラボレーションを行った。既存のパブリック・エナミーの楽曲「ブリング・ザ・ノイズ (Bring the Noise)」をメタル・アレンジで再録音したこのプロジェクトは、単なるサンプリングやゲスト参加の域を超えていた。スコット・イアンがボーカルを取り、チャックD (Chuck D) とフレイヴァー・フレイヴ (Flavor Flav) がスラッシュ・メタルの爆音の上でラップを交わすスタイルは、人種やジャンルの壁を物理的に破壊した。
- ジョイント・ツアー: 両バンドは共にツアーを行い、メタル・ファン (白人層中心)とヒップホップ・ファン(黒人層中心) を一つの会場に集めた。チャックDは当初、メタル・ファンからの反発を懸念していたが、結果として音楽が分断を乗り越える力を証明することとなった。
- 遺産: このコラボレーションは、後のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン (Rage Against the Machine)、リンプ・ビズキット (Limp Bizkit)、リンキン・パーク(Linkin Park) といったバンドに直接的な影響を与えたとされる。
5. 第4章: ジョン・ブッシュ時代とグランジの嵐 (1992-2005)
5.1 ジョーイ・ベラドナの解雇とジョン・ブッシュの加入
1992年、音楽的嗜好の変化とバンド内の緊張から、アンスラックスは長年のフロントマンであるジョーイ・ベラドナを解雇した。後任として迎えられたのは、ロサンゼルスのヘヴィメタル・バンド、アーマード・セイント (Armored Saint) のボーカリスト、ジョン・ブッシュ (John Bush) であった。ジョーイのハイトーンとは対照的に、ジョン・ブッシュの声はグランジやオルタナティブ・ロックにも通じる、野太く荒々しい中低音が特徴であった。
5.2 『Sound of White Noise』の成功 (1993)
新体制となり、レーベルをエレクトラ・レコード (Elektra Records) に移籍して発表された『サウンド・オブ・ホワイト・ノイズ (Sound of White Noise)』は、ビルボード・チャートで初登場7位を記録する大ヒットとなった。プロデューサーには、アリス・イン・チェインズ (Alice in Chains) などを手掛けたデイヴ・ジャーデン (Dave Jerden)を起用。
- サウンドはよりグルーヴィーでダークなものへと変化し、「Only」 や 「Room for One More」 といった楽曲は高い評価を得た。メタリカのジェイムズ・ヘットフィールド (James Hetfield) は 「Only」を「完璧な曲」と絶賛したと伝えられている。
- 「Black Lodge」では、『ツイン・ピークス (Twin Peaks)』の作曲家アンジェロ・バダラメンティ (Angelo Badalamenti) と共作するなど、芸術的な深みを増した。
5.3 レコード会社との闘争と低迷期
しかし、90年代中盤以降、バンドは音楽業界の激流に飲み込まれていく。1995年、リードギタリストのダン・スピッツが脱退し、時計職人 (スイス公認のマスター・ウォッチメーカー)へと転身するために音楽業界を去った。バンドは4人編成となり、スタジオ録音ではパンテラ (Pantera) のダイムバッグ・ダレル (Dimebag Darrell) がリードギターでゲスト参加するなどして凌いだ。
- 『Stomp 442』 (1995): エレクトラ・レコードの社長交代に伴い、バンドはプロモーションのサポートをほとんど受けられず、アルバムは商業的に苦戦した。これに憤慨したバンドはレーベルを離脱した。
- 『Volume 8: The Threat Is Real』 (1998): インディーズのイグニッション・レコード (Ignition Records) と契約してリリースしたが、直後にレーベルが倒産。アルバムは流通ルートを失い、優れた楽曲(「Inside Out」 など)が含まれていたにもかかわらず、埋もれた作品となってしまった。
5.4 『We've Come for You All』 と再生の兆し (2003)
数年間の不遇の時代を経て、バンドはサンクチュアリ・レコード (Sanctuary Records) と契約。新たなリードギタリストとしてロブ・カッジアーノ (Rob Caggiano)を迎え、2003年に『ウィ・ハヴ・カム・フォー・ユー・オール (We've Come for You All)』 をリリースした。このアルバムはジョン・ブッシュ時代の最高傑作と評され、バンドが依然として強力な楽曲制作能力を持っていることを証明した。「Safe Home」のミュージックビデオには俳優のキアヌ・リーブス (Keanu Reeves) が出演したことでも話題となった。
6. 第5章: 再結成の混乱と 「Big4」による復活 (2005-2011)
6.1 クラシック・ラインナップの一時的再結成 (2005-2007)
2005年、バンド結成20周年を記念して、ジョーイ・ベラドナとダン・スピッツを含む1980年代の「クラシック・ラインナップ」での再結成ツアーが発表された。これに伴い、ジョン・ブッシュとロブ・カッジアーノはバンドを離れた。ツアーは大成功を収めたが、新たなアルバム制作には至らず、2007年にジョーイとダンは再び脱退した。
6.2 ボーカリスト不在の迷走とダン・ネルソン
2007年末、無名の新人ダン・ネルソン (Dan Nelson) が新ボーカリストとして加入。新アルバム『Worship Music』 のレコーディングが進行したが、2009年にダン・ネルソンは突如解雇(または脱退)され、アルバムのリリースは白紙となった。その後、ジョン・ブッシュがライブのために一時復帰したが、正式な再加入は固辞した。バンドは存続の危機に立たされていた。
6.3 「The Big 4」 とジョーイ・ベラドナの帰還 (2010)
2010年、メタリカ、スレイヤー、メガデス、アンスラックスの4バンドが一堂に会する歴史的な「ビッグ・フォー (The Big 4)」ツアーが決定。この記念すべきイベントのために、ジョーイ・ベラドナが正式にバンドに復帰することが発表された。このツアー、特にブルガリアのソフィア公演(『The Big 4: Live from Sofia, Bulgaria』 として映像化) での 「Am I Evil?」 における全バンド共演は、メタル史に残る名場面となった。
6.4 奇跡の復活作『Worship Music』 (2011)
ジョーイの復帰に伴い、棚上げされていたアルバムは彼のボーカルで再録音され、2011年に『ワーシップ・ミュージック (Worship Music)』としてリリースされた。「Fight 'Em 'Til You Can't」や「I'm Alive」 といった楽曲は、往年のスラッシュ・サウンドと現代的なヘヴィネスが見事に融合しており、全米チャート12位を記録。批評家からもファンからも「完全復活」として絶賛された。
7. 第6章: 現代のアンスラックスと2026年への展望 (2012-Present)
7.1 ロブ・カッジアーノの脱退とジョナサン・ドネイズの加入
2013年、リードギタリストのロブ・カッジアーノが再び脱退し、デンマークのバンド、ヴォルビート (Volbeat) に加入した。後任として、シャドウズ・フォール (Shadows Fall) のギタリスト、ジョナサン・ドネイズ (Jonathan Donais) が加入した。彼のテクニカルかつモダンなプレイは、バンドに新たな息吹をもたらした。
2016年にはアルバム『フォー・オール・キングス (For All Kings)』をリリースし、全米9位を記録。このアルバムからのシングル 「Breathing Lightning」 はラジオでもヒットし、バンドの健在ぶりを示した。
7.2 結成40周年とパンデミック
2021年、バンドは結成40周年を迎えた。パンデミックの影響で大規模なツアーは制限されたが、オンラインでの祝賀イベントや、歴代アルバムを振り返るドキュメンタリー・シリーズを公開し、ファンとの絆を確認した。また、ライブ・アルバム 『XL』をリリースし、40年のキャリアを総括した。
7.3 最新情報: 2026年のニューアルバム (Projected 2026)
2024年から2025年にかけて、バンドは10年ぶりとなる12枚目のスタジオ・アルバムの制作に集中している。
- 制作状況: ドラマーのチャーリー・ベナンテとギタリストのスコット・イアンは、2025年末時点でアルバムのレコーディングとミキシングが完了し、最初のミュージックビデオの撮影も終了したと報告している。
- プロデューサー: 前2作に引き続き、ジェイ・ラストン (Jay Ruston)が担当。一部のレコーディングはデイヴ・グロール (Dave Grohl) のスタジオ606で行われた。
- タイトル: チャーリー・ベナンテはSNSで冗談めかして、ワーキングタイトル(仮題)が『hey, go fu** yourself』であると述べたが、正式タイトルは未発表である。彼は本作を「非常にニューヨークらしいアルバム」と評している。
- リリースとツアー: アルバムは2026年初頭のリリースが予定されている。また、2026年にはアイアン・メイデン (Iron Maiden) のツアーへの帯同や、オーストラリア・ツアーも決定しており、アンスラックスの次なる章が始まろうとしている。
8. メンバー詳細プロフィール (Band Members)
現メンバー (Current Members)
- 1. スコット・イアン (Scott Ian)
- 担当: リズムギター、バッキング・ボーカル (Rhythm Guitar, Backing Vocals)
- 在籍期間: 1981年-現在
- 役割: バンドの創設者であり、精神的支柱。作詞の大部分を担当。彼の右腕による正確無比なダウンピッキングは、スラッシュ・メタルのリフ・プレイの教科書とされる。特徴的な顎髭 (ゴートゥー) とスキンヘッドがトレードマーク。
- 2. チャーリー・ベナンテ (Charlie Benante)
- 担当: ドラムス (Drums)
- 在籍期間: 1983年-現在
- 役割: 音楽的な核。多くの楽曲のリフや構成を彼が考案している。また、グラフィック・デザイナーとしての才能もあり、アルバムのアートワークやグッズのデザインも手掛ける。ブラストビートの原型となる超高速ビートをメタルに持ち込んだパイオニアの一人。
- 3. フランク・ベロ (Frank Bello)
- 担当: ベース、バッキング・ボーカル (Bass, Backing Vocals)
- 在籍期間: 1984年-2004年, 2005年-現在
- 役割: チャーリーの甥。指弾きによるアグレッシブなトーンと、ステージ上での激しいアクション (ヘッドバンギング) で知られる。2004年に一時脱退し、ヘルメット(Helmet) に参加したが、再結成時に復帰した。
- 4. ジョーイ・ベラドナ (Joey Belladonna)
- 担当: リード・ボーカル (Lead Vocals)
- 在籍期間: 1984年-1992年, 2005年-2007年, 2010年-現在
- 役割: ネイティブ・アメリカンの血を引くシンガー。その広い声域とパワフルな声量は、アンスラックスのクラシック・サウンドを決定づけた。ライブでは時折ドラムセットに座り演奏することもある。
- 5. ジョナサン・ドネイズ (Jonathan Donais)
- 担当: リード・ギター (Lead Guitar)
- 在籍期間: 2013年-現在
- 役割: 元シャドウズ・フォール。テクニカルで流麗なソロ・ワークを提供し、バンドのサウンドを現代的にアップデートしている。
主要な元メンバー (Notable Former Members)
- ダン・リルカー (Dan Lilker) (Bass, 1981-1984): 創設メンバー。『Fistful of Metal』に参加。脱退後はS.O.D.、ニュークリア・アソルト、ブルータル・トゥルースなどで活躍し、アンダーグラウンド・シーンのカリスマとなった。
- ニール・タービン (Neil Turbin) (Vocals, 1982-1984): 初代ボーカル。ハイトーン・スクリームで初期のスタイルを築いた。
- ダン・スピッツ (Dan Spitz) (Lead Guitar, 1983-1995, 2005-2007): 黄金期のリードギタリスト。小柄な体格から繰り出されるメロディアスなソロはファンの人気が高かった。現在は世界的な高級時計職人として知られる。
- ジョン・ブッシュ (John Bush) (Vocals, 1992-2005): アーマード・セイントのシンガー。90年代の苦難の時代を支えた。彼の在籍時の楽曲も評価が高く、2025年には自身のソロ・バンドでアンスラックス時代の曲を演奏するツアーを行っている。
- ロブ・カッジアーノ (Rob Caggiano) (Lead Guitar, 2001-2005, 2007-2013): プロデューサーとしても手腕を発揮。『We've Come for You All』や『Worship Music』 に貢献した。
9. ディスコグラフィー (Discography)
9.1 スタジオ・アルバム (Studio Albums)
アンスラックスのスタジオ・アルバムは、その時代の音楽シーンやバンドの状況を色濃く反映している。
| タイトル (Original Title / Katakana) | リリース年 / レーベル | Vo. | 認定・チャート・備考 |
|---|---|---|---|
| Fistful of Metal フィストフル・オブ・メタル |
1984 Megaforce |
Neil Turbin | デビュー作。「Metal Thrashing Mad」収録。スピード・メタルの古典。 |
| Spreading the Disease 狂気のスラッシュ感染 |
1985 Megaforce / Island |
Joey Belladonna | ジョーイ加入第1作。「Madhouse」「A.I.R.」収録。 |
| Among the Living アマング・ザ・リビング |
1987 Megaforce / Island |
Joey Belladonna | USゴールド認定。スラッシュメタルの金字塔。「Caught in a Mosh」「Indians」収録。 |
| State of Euphoria ステート・オブ・ユーフォリア |
1988 Megaforce / Island |
Joey Belladonna | 「Antisocial」 (Trustカバー)が大ヒット。USゴールド認定。 |
| Persistence of Time パーシステンス・オブ・タイム |
1990 Megaforce / Island |
Joey Belladonna | ダークでプログレッシブな作風。「Got the Time」収録。USゴールド認定。 |
| Sound of White Noise サウンド・オブ・ホワイト・ノイズ |
1993 Elektra |
John Bush | ジョン・ブッシュ加入作。ビルボード7位。「Only」収録。USゴールド認定。 |
| Stomp 442 ストンプ 442 |
1995 Elektra |
John Bush | レーベルとの確執によりプロモーション不足に泣いた作品。ゲストにダイムバッグ・ダレル参加。 |
| Volume 8: The Threat Is Real ヴォリューム・エイト: ザ・スレット・イズ・リアル |
1998 Ignition |
John Bush | レーベル倒産の影響を受けた不運の傑作。「Inside Out」収録。隠しトラックでカントリー調の曲あり。 |
| We've Come for You All ウィ・ハヴ・カム・フォー・ユー・オール |
2003 Sanctuary |
John Bush | ジョン・ブッシュ期の集大成。ロブ・カッジアーノ加入。「Safe Home」収録。 |
| Worship Music ワーシップ・ミュージック |
2011 Megaforce |
Joey Belladonna | ジョーイ復帰作。全米12位。批評的にも大成功し、バンドの復活を印象付けた。 |
| For All Kings フォー・オール・キングス |
2016 Megaforce |
Joey Belladonna | ジョナサン・ドネイズ加入。全米9位。「Breathing Lightning」収録。 |
| (Title TBA) (タイトル未定) |
2026 (予定) (TBA) |
Joey Belladonna | 約10年ぶりの新作。制作完了済み。2026年リリース予定。 |
9.2 ライブ・アルバム (Live Albums)
- Live: The Island Years (1994): アイランド・レコード時代の1991年・1992年のライブ音源。
- Music of Mass Destruction (2004): ジョン・ブッシュ時代のシカゴ公演を収録。
- Alive 2 (2005): クラシック・ラインナップ再結成ツアーの模様を収録。
- The Big 4: Live from Sofia, Bulgaria (2010): メタリカ、スレイヤー、メガデスとの共演。
- Chile on Hell (2014): チリ・サンティアゴでの熱狂的なライブを収録。
- Kings Among Scotland (2018): グラスゴー公演。『Among the Living』 全曲演奏を含む。
- XL (2022): 結成40周年記念スタジオ・ライブ配信の音源化。
9.3 EP・コンピレーション (EPs & Compilations)
- Armed and Dangerous (EP, 1985): ジョーイ加入直後の音源。
- I'm the Man (EP, 1987): ラップ・メタルの先駆作。「Sabbath Bloody Sabbath」カバー収録。
- Penikufesin (EP, 1989): ヨーロッパ・日本限定。「Antisocial」 フランス語版やセックス・ピストルズのカバー等を収録。
- Attack of the Killer B's (Comp, 1991): 「Bring the Noise」 (w/ Public Enemy) 収録のB面集。
- Anthems (EP, 2013): 1970年代ロックのカバー集 (Rush, AC/DC, Boston, Journey等)
10. Conclusion
アンスラックスは、単に「速い音楽」を演奏するだけのバンドではない。ANTHRAXはニューヨークという多文化都市のエネルギーを吸収し、ヘヴィメタル、ハードコア・パンク、ヒップホップ、そしてポップ・カルチャーを融合させることで、独自の音楽ジャンルを切り拓いてきた。
ANTHRAXのキャリアは決して平坦ではなかった。ボーカリストの交代劇、レコード会社の倒産、音楽トレンドの変化といった数々の試練に直面しながらも、ANTHRAXは常に「Persistence of Time (不屈の時)」を体現し、生き残ってきた。2026年に予定されている新作とツアーは、結成45周年を迎えるANTHRAXが、現在進行形のモンスター・バンドであることを証明するだろう。アンスラックスの物語はまだ終わらない。
Trivia
12作目のアルバムの題名は、ドラマーのチャーリー・ベナンテがマリリン・モンローのドキュメンタリーを観ていて拾ったものである。彼女が最後に暮らした家のタイルに「Cursum Perficio」というラテン語が刻まれているのが映り、後からその意味を知って腑に落ちたのだという。レーベルの発表資料はこの語を「私の旅は終わりを迎えた」「私の旅は終わった」「私は旅を完遂する」と訳している。ベナンテはこれを最後の作品という宣言ではなく、ひとつの道のりを走り切ったという意味で選んだと説明している。
『Cursum Perficio』は本来2020年に作られるはずだった。それが叶わず、バンドが本腰を入れて録音に入ったのは2022年で、場所はロサンゼルスにあるデイヴ・グロールのスタジオ606である。プロデュースはジェイ・ラストンとバンド自身の共同名義。スコット・イアンは、パンデミックを経てようやくまたバンドとして集まれたのだと述べており、作業を始めた時点では同じ部屋にいられること自体が嬉しかったと振り返っている。
『Cursum Perficio』は2026年9月18日発売で、レーベルは北米が Megaforce Records、そのほかが Nuclear Blast Records という2社体制になっている。バンドにとって12作目のスタジオ・アルバムであり、前作『For All Kings』(2016年)から10年ぶりの新作にあたる。その『For All Kings』は Billboard 200 のトップ10に初登場していた。発表時点の編成はスコット・イアン(ギター)、チャーリー・ベナンテ(ドラム)、フランク・ベロ(ベース)、ジョーイ・ベラドナ(ヴォーカル)、ジョナサン・ドネイス(ギター)の5人。
1991年のパブリック・エナミーとの「Bring the Noise」は、スコット・イアンが単独で動かした企画だった。ジョーイ・ベラドナは『Persistence of Time』のリハーサル中にイアンが弾いていたリフを耳にして良いと思ったが、何なのかは教えてもらえず、気づいたときにはチャック・Dとフレイヴァー・フレイヴがスタジオに来ていたという。ベラドナは原曲すら後から聴いたと話している。両バンドが顔を合わせたのはハリウッドのコンウェイ・スタジオで、アンスラックス側はラップ寄りの試みとして1987年の「I'm the Man」を既に通過していた。
3作目『Among the Living』は、アルバム題名とジャケット・アートワークの両方がスティーヴン・キングの長編『ザ・スタンド』から採られている。聴き手が最初に触れる二つの要素、つまり看板と見た目を、この作品は一冊の小説にまとめて預けていることになる。
「I Am the Law」の題材は、イギリスの漫画誌『2000AD』のジャッジ・ドレッドである。この曲と「Indians」はアルバムが出るずっと前、『Spreading the Disease』のツアーの時点で既にライヴで演奏されていた。さらに「I Am the Law」には、初代ベーシストのダン・リルカーが残していた古い音楽的アイデアが使われており、リルカーは同じアルバムの「Imitation of Life」にも関わっている。作曲の分担はチャーリー・ベナンテが曲、スコット・イアンが詞という、最初の2作から変えていない形だった。
『Among the Living』のプロデューサーには、キッス、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックスを手掛けたエディ・クレイマーが起用された。狙いは彼の70年代の生々しい音で、当時主流だった作り込んだプロダクションを避けるためだった。ところが最初に上がってきたミックスはヴォーカルにリヴァーブが厚くかかりギターも滲んだもので、バンドは自分たちがデフ・レパードのように聞こえることに衝撃を受けたという。激しい口論になったがクレイマーを降ろす話は出ず、スコット・イアンはむしろその怒りが演奏を速く、極端にしたと振り返っている。録音はマイアミのクアッド・ラディアル・スタジオで6週間、ミックスはバハマのコンパス・ポイントで行われた。
「スラッシュ・メタル」という語を生んだのは、アンスラックスについて書いていた記者だとされている。Louder(Metal Hammer)は自誌の筆者紹介の中で、マルコム・ドームが1984年にアンスラックスの曲「Metal Thrashing Mad」について書いた際にこの語を作ったとされる、と記している。ドームは2021年に亡くなっており、当サイトが『Among the Living』について引いているスコット・イアンへのインタビューも彼の仕事である。
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