ASIA
エイジア (ASIA) は、1981年にロンドン (London) で結成された英国のロックバンドであり、音楽史上最も商業的に成功した「スーパーグループ (Supergroup)」の一つとして広く認識されている。
Biography
エイジア (ASIA)
バイオグラフィ、ディスコグラフィ、音楽的変遷
1. プログレッシブ・ロックとポップ・ミュージックの融合
エイジア (ASIA) は、1981年にロンドン (London) で結成された英国のロックバンドであり、音楽史上最も商業的に成功した「スーパーグループ (Supergroup)」の一つとして広く認識されている。ASIAの登場は、1970年代に隆盛を極めたプログレッシブ・ロック (Progressive Rock) の技巧と壮大さを、1980年代のラジオ・フレンドリーなAOR (Album-Oriented Rock) やMTV文化に適応させた歴史的な転換点であった。
2. 前史: 巨星たちの合流とスーパーグループの胎動 (1980-1981)
エイジア (ASIA) の結成は、1970年代後半の英国プログレッシブ・ロック・シーンの崩壊と再編を背景としている。パンク・ロック (Punk Rock) の台頭により、長尺で難解な楽曲を特徴とするプログレッシブ・ロックは「恐竜」と揶揄され、多くのバンドが解散や方向転換を余儀なくされていた。
2.1 創設メンバーの背景
エイジア (ASIA) を構成することになる4人のミュージシャンは、それぞれが既に伝説的なキャリアを築いていた。
- ジョン・ウェットン (John Wetton) - ボーカル、ベース (Vocals, Bass): キング・クリムゾン (King Crimson)、ユー・ケー (U.K.)、ユーライア・ヒープ (Uriah Heep)、ロキシー・ミュージック (Roxy Music) などを渡り歩いた実力者。特にユー・ケー (U.K.) においては、プログレッシブな演奏とポップなメロディの融合を模索しており、これが後のエイジア (ASIA) のサウンドの基礎となった。
- スティーヴ・ハウ (Steve Howe) - ギター (Guitars): イエス (Yes) の黄金期を支えたギタリスト。クラシック、ジャズ、カントリーなど多様なスタイルをロックに持ち込み、その技巧的なプレイはプログレッシブ・ロックの象徴であった。イエス (Yes) の解散(一時的な)に伴い、新たな活動の場を模索していた。
- カール・パーマー (Carl Palmer) - ドラムス (Drums): エマーソン・レイク・アンド・パーマー (Emerson, Lake & Palmer - ELP) のドラマー。圧倒的なテクニックとスピード、そしてショーマンシップで知られる。ELP解散後、自身のバンドであるPMなどを経て、より商業的な成功を求めていた。
- ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) - キーボード (Keyboards): バグルス (The Buggles) で「ラジオ・スターの悲劇 (Video Killed the Radio Star)」をヒットさせ、その後イエス (Yes) に加入してアルバム 『ドラマ (Drama)』に参加。ニュー・ウェイヴ (New Wave) の感性と最新のシンセサイザー技術を持ち込み、サウンドの近代化に貢献した。
2.2 結成のプロセスと業界の介入
バンドの結成には、レコード会社の戦略的な介入が不可欠であった。当時、ゲフィン・レコード (Geffen Records) のA&R担当役員であったジョン・カロドナー (John Kalodner) は、ジョン・ウェットン (John Wetton) の才能に注目し、彼を中心とした商業的に成功するバンドの結成を画策していた。
当初、ウェットン (Wetton) はリック・ウェイクマン (Rick Wakeman) とのプロジェクトを模索していたが頓挫。その後、マネージャーのブライアン・レーン (Brian Lane) の仲介により、スティーヴ・ハウ (Steve Howe) と引き合わされた。二人は1981年初頭から楽曲制作を開始し、互いの音楽的親和性を確認した。
ドラマーに関しては、当初サイモン・フィリップス (Simon Phillips) なども候補に挙がったが、最終的にカール・パーマー (Carl Palmer) が参加。キーボードについては、当初イエス (Yes) 時代の同僚であるジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) がセッション的に参加していたが、彼とウェットン (Wetton) のソングライティングにおける相性が抜群であることが判明し、正式メンバーとして迎えられた。
バンド名については、マネージャーのブライアン・レーン (Brian Lane) が提案した「エイジア (ASIA)」が採用された。ジョン・ウェットン (John Wetton) はこの名前を「4文字で視覚的にデザインしやすく、壮大である」として気に入ったが、他のメンバーは当初難色を示していたという。ロゴデザインは、イエス (Yes) やユーライア・ヒープ (Uriah Heep) のジャケットを手掛けたロジャー・ディーン (Roger Dean) が担当し、バンドのビジュアル・アイデンティティを決定づけた。
3. 黄金期: デビューと爆発的な成功 (1982-1985)
3.1 デビューアルバム『詠時感~時へのロマン (ASIA)』 (1982)
1982年3月、デビューアルバム『エイジア (ASIA)』がリリースされた。プロデューサーには、ジャーニー (Journey) やクイーン (Queen) を手掛けたマイク・ストーン (Mike Stone) が起用された。彼の起用は、バンドのサウンドをよりラジオ・フレンドリーなものにするための意図的な選択であった。
音楽的特徴と受容: このアルバムは、プログレッシブ・ロックの構築美と、3分から4分のコンパクトなポップ・ソングのフォーマットが見事に融合していた。ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) の重厚なシンセサイザーの壁、スティーヴ・ハウ (Steve Howe) のメロディアスかつテクニカルなギター、カール・パーマー (Carl Palmer) のダイナミックだが抑制の効いたドラミング、そしてジョン・ウェットン (John Wetton) の力強く哀愁を帯びたボーカルが一体となり、またたく間に全米チャートを席巻した。
アルバムは全米ビルボード・チャートで9週間1位を獲得し、1982年の年間ベストセラー・アルバムとなった。全世界での売上は1,000万枚を超えるとされる。
主要楽曲:
- ヒート・オブ・ザ・モーメント (Heat of the Moment): ビルボード Hot 100で4位を記録。キャッチーなサビと6/8拍子のリズムが特徴的な、バンドの代表曲。
- 時へのロマン (Only Time Will Tell): シンセサイザーのイントロが印象的な楽曲で、MTVでも頻繁に放映された。
- 孤独のサバイバー (Sole Survivor): ドラマチックな展開を持つロック・ナンバー。
3.2 アルバム 『アルファ (Alpha)』と亀裂 (1983)
巨大な成功の後、バンドはすぐに次作の制作に取り掛かった。1983年にリリースされたセカンド・アルバム『アルファ (Alpha)』は、前作の延長線上にありつつも、より洗練されたポップ・サウンドを追求した作品となった。
成果と批判: アルバムは全米6位を記録し、「ドント・クライ (Don't Cry)」や「偽りの微笑み (The Smile Has Left Your Eyes)」などのヒットを生み出した。しかし、批評家や一部のファンからは、プログレッシブな要素が後退し、あまりにも商業的になりすぎたとの批判も受けた。特にスティーヴ・ハウ (Steve Howe) のギターの出番が減少し、ウェットン (Wetton) とダウンズ (Downes) の鍵盤主体の曲作りが支配的になったことが、バンド内のパワーバランスに歪みを生じさせた。
1983年のメンバー交代劇: 『アルファ (Alpha)』の売上がデビュー作ほど伸びなかったことや、バンド内の人間関係の悪化(特にウェットンとハウの間)により、1983年後半、ジョン・ウェットン (John Wetton) が一時的にバンドを解雇されるという事態が発生した。
3.3 日本武道館と「エイジア・イン・エイジア (ASIA in ASIA)」
ウェットン (Wetton) の解雇直後、バンドは日本での大規模なコンサート「エイジア・イン・エイジア (ASIA in ASIA)」を控えていた。これはMTVを通じて全米に衛星生中継されるという歴史的なイベントであった。代役として、カール・パーマー (Carl Palmer) のELP時代の盟友であるグレッグ・レイク (Greg Lake) が急遽招集された。
レイク (Lake) は短期間で楽曲を習得し、1983年12月の日本武道館公演を成功させた。しかし、彼の声質はウェットン (Wetton) よりも低く、キーの調整が必要であったことや、彼自身が正式加入を望まなかったことから、このラインナップは一時的なものに終わった。その後、ウェットン (Wetton) はバンドに復帰を要請され、これを受け入れた。
3.4 アルバム『アストラ (Astra)』 と活動休止 (1985)
ウェットン (Wetton) の復帰後、今度はスティーヴ・ハウ (Steve Howe) がバンドを去ることとなった。後任には、元クロクス (Krokus) のマンディ・メイヤー (Mandy Meyer) が起用された。
1985年にリリースされた第3作『アストラ (Astra)』は、よりハードロック色が強く、テクノロジーを多用したサウンドとなった。シングル「ゴー (Go)」はヒットしたものの、アルバム自体のセールスは前2作に比べて大きく落ち込み(全米67位)、ゲフィン・レコード (Geffen Records) のプロモーションも縮小された。予定されていたツアーはキャンセルされ、バンドは事実上の活動休止状態へと追い込まれた。
4. 移行期とジョン・ペイン時代の到来 (1991-2006)
1980年代後半、メンバーはそれぞれのソロ活動や別プロジェクト (GTR、ウェットン・マンザネラなど) を行っていたが、ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) はエイジア (ASIA) の再始動を模索し続けた。
4.1 新たなフロントマン: ジョン・ペイン (John Payne)
1991年、ジョン・ウェットン (John Wetton) が再び脱退した後、ダウンズ (Downes) は新たなボーカリスト兼ベーシストとしてジョン・ペイン (John Payne) を抜擢した。これ以降、2006年のオリジナル・メンバー再結成までの約15年間は「ダウンズ/ペイン期 (Downes/Payne Era)」と呼ばれる。この時期のエイジア (ASIA) は、メンバーを流動的に変えながらも、コンスタントにアルバム制作とツアーを行った。
4.2 ペイン時代のスタジオ・アルバム詳細分析
この時期の作品は、商業的な規模こそ全盛期には及ばないものの、音楽的にはAOR、ハードロック、そしてプログレッシブ・ロックの要素を巧みに融合させた成熟した作品群として、一部のファンから高く評価されている。
4.2.1 『アクア (Aqua)』 (1992)
ジョン・ペイン (John Payne) 体制での第一弾アルバム。
- 背景: ジョン・ウェットン (John Wetton) 脱退後の再出発作であり、ゲストとしてスティーヴ・ハウ (Steve Howe) とカール・パーマー (Carl Palmer) が参加しているため、過渡期的な作品である。
- 音楽性: 古典的なエイジア・サウンドを踏襲しつつ、ペイン (Payne) のハスキーで力強いボーカルが新たな色を加えている。
- 主要曲: 「フー・ウィル・ストップ・ザ・レイン (Who Will Stop the Rain?)」は、環境問題を扱った壮大なバラードで、ライブの定番となった。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | Aqua Part 1 (アクア・パート1) | 2:26 | インストゥルメンタル |
| 2 | Who Will Stop the Rain? (フー・ウィル・ストップ・ザ・レイン) | 4:35 | |
| 3 | Back in Town (バック・イン・タウン) | 4:09 | |
| 4 | Love Under Fire (ラブ・アンダー・ファイア) | 5:15 | |
| 5 | Someday (サムデイ) | 5:48 | |
| 6 | Little Rich Boy (リトル・リッチ・ボーイ) | 4:38 | |
| 7 | The Voice of Reason (ザ・ボイス・オブ・リーズン) | 5:37 | |
| 8 | Lay Down Your Arms (レイ・ダウン・ユア・アームズ) | 4:14 | |
| 9 | Crime of the Heart (クライム・オブ・ザ・ハート) | 5:57 | |
| 10 | A Far Cry (ア・ファー・クライ) | 5:30 | |
| 11 | Don't Call Me (ドント・コール・ミー) | 4:55 | |
| 12 | Heaven on Earth (ヘヴン・オン・アース) | 4:54 | |
| 13 | Aqua Part 2 (アクア・パート2) | 2:11 |
4.2.2 『アリア (Aria)』 (1994)
ラインナップ: ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes)、ジョン・ペイン (John Payne)、アル・ピトレリ (Al Pitrelli - Gt)、マイク・スタージス (Mike Sturgis - Dr)。
- 特徴: よりギター主導のAOR/ハードロック・サウンドへと変化。アル・ピトレリ (Al Pitrelli) のテクニカルなギターが前面に出ている。しかし、商業的には苦戦した。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | Anytime (エニタイム) | 4:57 |
| 2 | Are You Big Enough? (アー・ユー・ビッグ・イナフ?) | 4:08 |
| 3 | Desire (デザイア) | 5:20 |
| 4 | Summer (サマー) | 4:07 |
| 5 | Sad Situation (サッド・シチュエーション) | 3:59 |
| 6 | Don't Cut the Wire (Brother) (ドント・カット・ザ・ワイヤー) | 5:20 |
| 7 | Feels Like Love (フィールズ・ライク・ラブ) | 4:50 |
| 8 | Remembrance Day (リメンバランス・デイ) | 4:19 |
| 9 | Enough's Enough (イナフズ・イナフ) | 4:37 |
| 10 | Military Man (ミリタリー・マン) | 4:10 |
| 11 | Aria (アリア) | 2:27 |
4.2.3 『アリーナ (Arena)』 (1996)
- 変化: ギタリストがアジス・イブラヒム (Aziz Ibrahim) など複数のゲスト奏者に代わった。ラテン音楽の要素や実験的なプロダクションが取り入れられている。
- 評価: ペイン (Payne) 時代のファンからは、楽曲の多様性と完成度で高く評価されることが多い。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | Into the Arena (イントゥ・ザ・アリーナ) | 2:59 | インストゥルメンタル |
| 2 | Arena (アリーナ) | 5:16 | |
| 3 | Heaven (ヘヴン) | 5:17 | |
| 4 | Two Sides of the Moon (トゥー・サイズ・オブ・ザ・ムーン) | 5:22 | |
| 5 | The Day Before the War (ザ・デイ・ビフォア・ザ・ウォー) | 9:08 | エピック曲 |
| 6 | Never (ネヴァー) | 5:32 | |
| 7 | Falling (フォーリング) | 4:57 | |
| 8 | Words (ワーズ) | 5:18 | |
| 9 | U Bring Me Down (ユー・ブリング・ミー・ダウン) | 7:07 | |
| 10 | Tell Me Why (テル・ミー・ホワイ) | 5:14 | |
| 11 | Turn It Around (ターン・イット・アラウンド) | 4:28 | |
| 12 | Bella Nova (ベラ・ノヴァ) | 3:10 |
4.2.4 『オーラ (Aura)』 (2001)
- 特徴: ペイン (Payne) 時代の最高傑作との呼び声も高い作品。プログレッシブ・ロックへの回帰が見られ、よりアトモスフェリックな音作りがなされている。
- ゲスト: スティーヴ・ハウ (Steve Howe) がゲスト復帰したほか、ガスリー・ゴーヴァン (Guthrie Govan - Gt)、トニー・レヴィン (Tony Levin - Ba)、ヴィニー・カリウタ (Vinnie Colaiuta - Dr) など超一流ミュージシャンが参加。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1 | Awake (アウェイク) | 6:01 | |
| 2 | Wherever You Are (ホエアエヴァー・ユー・アー) | 4:48 | |
| 3 | Ready to Go Home (レディ・トゥ・ゴー・ホーム) | 4:48 | 10ccのカバ |
| 4 | The Last Time (ザ・ラスト・タイム) | 4:58 | |
| 5 | Forgive Me (フォーギヴ・ミー) | 5:24 | |
| 6 | Kings of the Day (キングス・オブ・ザ・デイ) | 6:42 | |
| 7 | On the Coldest Day in Hell (オン・ザ・コールデスト・デイ・イン・ヘル) | 6:26 | |
| 8 | Free (フリー) | 8:13 | |
| 9 | You're the Stranger (ユー・アー・ザ・ストレンジャー) | 5:47 | |
| 10 | The Longest Night (ザ・ロンゲスト・ナイト) | 5:21 | |
| 11 | Aura (オーラ) | 4:45 |
4.2.5 『サイレント・ネイション (Silent Nation)』 (2004)
- ラインナップ: ジェフ・ダウンズ (Key)、ジョン・ペイン (Vo, Ba)、ガスリー・ゴーヴァン (Gt)、クリス・スレイド (Dr)。
- 特徴: バンドとして固定されたメンバーによる、よりストレートなロック・アルバム。ロジャー・ディーン (Roger Dean) 以外のアーティストがジャケットを手掛けた珍しい作品。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | What About Love? (ホワット・アバウト・ラブ) | 5:25 |
| 2 | Long Way from Home (ロング・ウェイ・フロム・ホーム) | 6:01 |
| 3 | Midnight (ミッドナイト) | 6:24 |
| 4 | Blue Moon Monday (ブルー・ムーン・マンデイ) | 7:17 |
| 5 | Silent Nation (サイレント・ネイション) | 6:04 |
| 6 | Ghost in the Mirror (ゴースト・イン・ザ・ミラー) | 4:38 |
| 7 | Gone Too Far (ゴーン・トゥ・ファー) | 6:48 |
| 8 | I Will Be There for You (アイ・ウィル・ビー・ゼア・フォー・ユー) | 4:10 |
| 9 | Darkness Day (ダークネス・デイ) | 6:18 |
| 10 | The Prophet (ザ・プロフェット) | 5:16 |
5. 大分裂: 二つの「エイジア」と法的闘争 (2006)
2006年、オリジナル・メンバー(ウェットン、ハウ、パーマー、ダウンズ)による再結成が発表された。これはファンにとって待望のニュースであったが、それまで15年間バンドを守り続けてきたジョン・ペイン (John Payne) にとっては突然の解雇を意味した。
5.1 法的合意と名称権
この分裂により、「エイジア (ASIA)」という名称を巡る複雑な状況が発生した。最終的な法的合意により、以下の2つの実体が並存することとなった。
- ASIA (エイジア): オリジナル・メンバー(後にメンバー変更あり)によるバンド。ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) を中心とし、1982年のデビューからの正統な後継として活動。
- ASIA Featuring John Payne (エイジア・フィーチャリング・ジョン・ペイン): ジョン・ペイン (John Payne) が率いるバンド。1991年から2006年までの楽曲およびクラシックなエイジアの楽曲を演奏する権利を持つ。ペイン (Payne) はインタビューで「15年間の歴史と楽曲を無にしたくなかった」と語っている。
また、ペイン (Payne) は後にラスベガスのショー「Raiding the Rock Vault」に関与したが、その権利関係を巡って訴訟を起こすなど、ビジネス面での闘争も報じられた。
6. オリジナル・ラインナップの復活と円熟 (2006-2013)
再結成したオリジナル・エイジア (Original ASIA) は、精力的に新作を発表した。
6.1 アルバム『フェニックス (Phoenix)』 (2008)
25年ぶりとなるオリジナル・メンバーによるスタジオ・アルバム。
- 内容: 『エイジア (ASIA)』や『アルファ (Alpha)』のサウンドを現代的にアップデートしつつ、ウェットン (Wetton) の病気(心臓手術)や人生経験を反映した歌詞が特徴。「アン・エクストラオーディナリー・ライフ (An Extraordinary Life)」は、生きる喜びを歌った感動的な楽曲として知られる。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | Never Again (ネヴァー・アゲイン) | 4:55 |
| 2 | Nothing's Forever (ナッシングズ・フォーエヴァー) | 5:46 |
| 3 | Heroine (ヒロイン) | 4:54 |
| 4 | Sleeping Giant / No Way Back / Reprise (スリーピング・ジャイアント〜ノー・ウェイ・バック〜リプライズ) | 8:10 |
| 5 | Alibis (アリバイズ) | 5:40 |
| 6 | I Will Remember You (アイ・ウィル・リメンバー・ユー) | 5:12 |
| 7 | Shadow of a Doubt (シャドウ・オブ・ア・ダウト) | 4:18 |
| 8 | Parallel Worlds / Vortex / Déyà (パラレル・ワールド〜ヴォルテックス〜デイヤ) | 8:13 |
| 9 | Wish I'd Known All Along (ウィッシュ・アイド・ノウン・オール・アロング) | 4:07 |
| 10 | Orchard of Mines (オーチャード・オブ・マインズ) | 5:12 |
| 11 | Over and Over (オーヴァー・アンド・オーヴァー) | 3:34 |
| 12 | An Extraordinary Life (アン・エクストラオーディナリー・ライフ) | 4:59 |
6.2 アルバム 『オメガ (Omega)』 (2010)
- 制作: 外部プロデューサーとしてマイク・リンデル (Mike Lindell) を起用。バンド・サウンドの引き締めが図られた。
- 評価: シングル「フィンガー・オン・ザ・トリガー (Finger on the Trigger)」を含め、メロディの質が高い評価を受けた。
| 曲順 | タイトル(英語/カタカナ) | 時間 |
|---|---|---|
| 1 | Finger on the Trigger (フィンガー・オン・ザ・トリガー) | 4:30 |
| 2 | Through My Veins (スルー・マイ・ヴェインズ) | 5:08 |
| 3 | Holy War (ホーリー・ウォー) | 5:59 |
| 4 | Ever Yours (エヴァー・ユアーズ) | 4:04 |
| 5 | Listen, Children (リッスン・チルドレン) | 5:56 |
| 6 | End of the World (エンド・オブ・ザ・ワールド) | 5:39 |
| 7 | Light the Way (ライト・ザ・ウェイ) | 5:09 |
| 8 | Emily (エミリー) | 5:12 |
| 9 | I'm Still the Same (アイム・スティル・ザ・セイム) | 4:43 |
| 10 | There Was a Time (ゼア・ワズ・ア・タイム) | 5:58 |
| 11 | I Believe (アイ・ビリーブ) | 4:42 |
6.3 アルバム 『XXX (トリプル・エックス)』 (2012)
デビュー30周年を記念する作品。「フェイス・オン・ザ・ブリッジ (Face on the Bridge)」など、往年のエイジア・サウンドを最も色濃く反映した作品として、再結成3部作の中で最も高い評価を得ることが多い。
7. 喪失と再生: ハウの引退からウェットンの死まで (2013-2017)
7.1 スティーヴ・ハウの引退と『グラヴィタス (Gravitas)』 (2014)
2013年、スティーヴ・ハウ (Steve Howe) はイエス (Yes) とソロ活動に専念するため、エイジア (ASIA) からの引退を表明した。後任には、YouTubeでの演奏動画が注目された若手ギタリスト、サム・コールソン (Sam Coulson) が抜擢された。
新体制で制作されたアルバム『グラヴィタス (Gravitas)』は、コールソン (Coulson) のハードロック寄りのギターにより、力強いサウンドとなった。「ヴァルキリー (Valkyrie)」などの楽曲が収録されている。
7.2 ジョン・ウェットンの逝去
2017年1月31日、バンドの顔であり主要ソングライターであったジョン・ウェットン (John Wetton) が大腸癌のため67歳で逝去した。彼の死は、プログレッシブ・ロック界にとって計り知れない損失であった。
ウェットン (Wetton) は死の直前までツアーへの意欲を見せており、自身の代役としてイエス (Yes) のビリー・シャーウッド (Billy Sherwood) を指名していた。バンドは彼の遺志を継ぎ、ジャーニー (Journey) とのツアーを敢行した。
8. 近年の動向と新生エイジア (2017-Present)
ウェットンの死後、バンドはトリビュート・コンサートや断続的なツアーを行った。2019年にはロン・"バンブルフット"・サール (Ron "Bumblefoot" Thal) がボーカルとギターで参加し、新たな息吹を吹き込んだ。
8.1 2024年以降の新ラインナップ
2024年、唯一のオリジナル・メンバーとなったジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) は、新たなラインナップでの活動を発表した。
現在のメンバー (2025年時点):
- ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) - キーボード (Keyboards): バンドの守護者。
- ジョン・ミッチェル (John Mitchell) - ギター (Guitars): イット・バイツ (It Bites) やアリーナ (Arena) で活躍するプログレ界の名手。ウェットンのアイコン (Icon) プロジェクトにも参加していた。
- ヴァージル・ドナティ (Virgil Donati) - ドラムス (Drums): プラネットX (Planet X) などで知られる超絶技巧ドラマー。
- ハリー・ウィットリー (Harry Whitley) - ボーカル、ベース (Vocals, Bass): 1995年、北ウェールズのレクサム (Wrexham) 生まれ。5歳からピアノを始め、パンデミック中にYouTubeに投稿したエイジア (ASIA) のカバー動画がダウンズ (Downes) の目に留まり抜擢された。彼の声質は驚くほどジョン・ウェットン (John Wetton) に酷似しており、バンドの正統な後継者としての期待を背負っている。
この新ラインナップは現在、デビュー・アルバム『エイジア (ASIA)』の全曲演奏ツアーを行っており、2026年には新作スタジオ・アルバムのリリースも計画されている。
9. ディスコグラフィ (Discography)
以下に、エイジア (ASIA) 名義の主要なスタジオ・アルバム、ライブ・アルバム、コンピレーション・アルバムを網羅する。
9.1 スタジオ・アルバム一覧
| 発売年 | タイトル(英語/カタカナ) | 英米チャート最高位 | ラインナップの特記事項 |
|---|---|---|---|
| 1982 | ASIA (詠時感~時へのロマン) | US #1, UK #11 | オリジナル・メンバー (Wetton, Howe, Palmer, Downes) |
| 1983 | Alpha (アルファ) | US #6, UK #5 | オリジナル・メンバー |
| 1985 | Astra (アストラ) | US #67, UK #68 | Howe脱退、Mandy Meyer参加 |
| 1992 | Aqua (アクア) | Payne加入、Howe & Palmerゲスト参加 | |
| 1994 | Aria (アリア) | Downes, Payne, Pitrelli, Sturgis | |
| 1996 | Arena (アリーナ) | Downes, Payne, Guests | |
| 2001 | Aura (オーラ) | Downes, Payne, Govan (Guest), Howe (Guest) | |
| 2004 | Silent Nation (サイレント・ネイション) | Downes, Payne, Govan, Slade | |
| 2008 | Phoenix (フェニックス) | US #73 | オリジナル・メンバー再結成 |
| 2010 | Omega (オメガ) | オリジナル・メンバー | |
| 2012 | XXX (トリプル・エックス) | US #134 | オリジナル・メンバー |
| 2014 | Gravitas (グラヴィタス) | Howe引退、Sam Coulson参加 |
9.2 主要コンピレーション・アルバム
- Then & Now (ゼン・アンド・ナウ) (1990年8月14日発売): 活動休止期にリリースされた重要作。A面 (Then) にはヒット曲、B面 (Now) には「デイズ・ライク・ジーズ (Days Like These)」などの未発表曲が収録された。米国でゴールドディスク認定。
- Gold (ゴールド) (2005年発売): ゲフィン (Geffen) 時代の楽曲を網羅した2枚組ベスト。リマスター音源を使用。
9.3 主要ライブ・アルバム
- FantASIA: Live in Tokyo (ファンタジア~ライヴ・イン・トーキョー) (2007): オリジナル・メンバー再結成ツアーの模様を収録した決定版。
- ASIA in ASIA - Live at the Budokan 1983 (エイジア・イン・エイジア) (2022): グレッグ・レイク (Greg Lake) がボーカルを務めた伝説の公演の公式リリース。
- The Official Live Bootlegs Volume 1 (2021): 1982年から2010年までの様々なライブ音源(バッファロー、ウースター、サンパウロ、東京、ロンドン)をまとめた10枚組ボックスセット。
10. メンバー詳細バイオグラフィ (Member Biographies)
ジョン・ウェットン (John Wetton) - Vocal, Bass
1949年6月12日、ダービーシャー (Derbyshire) 生まれ。キング・クリムゾン (King Crimson) の『太陽と戦慄(Larks' Tongues in Aspic)』期を支えた強力なベースとボーカルで名声を確立。ロキシー・ミュージック (Roxy Music) やユーライア・ヒープ (Uriah Heep) を経て、ビル・ブルーフォード (Bill Bruford) らとユー・ケー (U.K.) を結成。エイジア (ASIA) では、それまでのキャリアで培った技術をポップな楽曲構成に注ぎ込み、世界的スターとなった。2017年没。
ジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) - Keyboards
1952年8月25日、ストックポート (Stockport) 生まれ。バグルス (The Buggles) で「ラジオ・スターの悲劇」をヒットさせ、イエス (Yes) に加入。多数のキーボードを要塞のように並べて演奏するスタイルが特徴。エイジア (ASIA) 結成以来、唯一バンドに在籍し続けているメンバーであり、バンドのサウンドの要である。
スティーヴ・ハウ (Steve Howe) - Guitars
1947年4月8日、ロンドン (London) 生まれ。イエス (Yes) の黄金期ギタリスト。クラシックギター、ペダル・スティール、エレキギターを自在に持ち替えるスタイルで知られる。エイジア (ASIA) では、ダウンズ (Downes) のコード主体の鍵盤に対し、装飾的でメロディアスなリード・ギターを提供し、サウンドに深みを与えた。
カール・パーマー (Carl Palmer) - Drums
1950年3月20日、バーミンガム (Birmingham) 生まれ。ELPでの超人的なドラミングで知られるが、エイジア (ASIA) ではより楽曲のビートを重視したストレートなプレイに徹した。しかし、ライブではドラム・ソロを披露し、その健在ぶりを示し続けた。現在は「ELPレガシー (ELP Legacy)」などのプロジェクトでも活動。
ジョン・ペイン (John Payne) - Vocal, Bass
1958年9月29日生まれ。1991年から2006年までエイジア (ASIA) を牽引。ウェットン (Wetton) とは異なるハスキーでブルージーな声質を持つ。ロジャー・ダルトリー (Roger Daltrey) のバックバンドなどを経て加入。現在は「エイジア・フィーチャリング・ジョン・ペイン (ASIA Featuring John Payne)」として活動中。
ハリー・ウィットリー (Harry Whitley) - Vocal, Bass
1995年生まれ。幼少期からピアノを学び、マルチ・インストゥルメンタリストとして成長。ディープ・パープル (Deep Purple) のトリビュート・バンドなどで活動していた。ジョン・ウェットン (John Wetton) への深いリスペクトを持ち、その声質と演奏スタイルは、新生エイジア (ASIA) の核となっている。
11. Conclusion
エイジア (ASIA) の歴史は、プログレッシブ・ロックが時代の変化にいかに適応し、生き残ってきたかを示す壮大な物語である。は「スーパーグループ」という言葉が持つ一時的なプロジェクトというイメージを覆し、メンバーチェンジや分裂、悲劇的な死を乗り越えて40年以上存続してきた。
ジョン・ウェットン (John Wetton) とジェフ・ダウンズ (Geoff Downes) が築き上げたメロディアスで壮大な楽曲群は、世代を超えて受け継がれている。現在、ハリー・ウィットリー (Harry Whitley) という若き才能を得て、エイジア (ASIA) はそのレガシーを次世代へと繋ぐ新たなフェーズに入ったと言えるだろう。2026年に予定される新作は、この伝説的バンドの新たな章を切り開くものとして注目される。
Trivia
1987年、ダウンズとウェットンはエイジアを立て直そうとしている。ギターに元シン・リジィのスコット・ゴーハム、ドラムにマイケル・スタージスを迎えた編成だった。ダウンズの公式サイトに残る回想によれば、このとき日本のJVCがかなりの好条件を提示している。だがその頃には勢いが尽きており、ゴーハムとスタージスは21 GUNSの結成へ向かって離れていった。
日本では、ジョン・ペイン期のエイジアが別のアーティストとして扱われている。ソニーミュージックの公式サイトは、この時期の作品を「エイジア・フィーチャリング・ジョン・ペイン」名義のディスコグラフィに置いている。そして『Aria』には『天空のアリア』という邦題が与えられた。同時期に再発された『アクア』『アリーナ』『アーカイヴァ』がいずれもカタカナ表記のままであることを思えば、この一枚だけが日本語の題を持っている。
2026年2月、エイジアは「ASIA IN ASIA」という題で日本へ戻り、1983年の初来日公演のセットリストを再現した。会場はビルボードライブ大阪(2月3日・4日)、ビルボードライブ横浜(2月6日)、ビルボードライブ東京(2月8日・9日)で、各日二回公演。43年前に日本武道館で衛星中継された、あの晩の曲順である。
その2022年のボックスの日本盤には、当時のパンフレットとチケットのレプリカが入っている。いずれも日本で製作されたもので、欧州盤とは別内容である。同じ商品でありながら、封入される紙物が国によって違う。アートワークはロジャー・ディーンの描き下ろし、そして日本盤には日本限定の2枚組LPも付く。
1983年の武道館公演には、衛星中継が終わった後にも演奏された曲がある。アンコールの「Cutting It Fine」と「Daylight」で、当時のビデオとレーザーディスクからは割愛されていた。2022年のボックス・セットで、この二曲がようやく収録された。
1983年の来日公演について、グレッグ・レイクが「Don't Cry」を嫌い、歌うのを拒んだという話が伝わっている。2025年、日本での取材でこれを問われたジェフ・ダウンズは、話を少し戻している。レイクがこの曲をポップでストレート過ぎると言っていたのは事実だが、「拒否した」というほど強いものではなかった、というのである。当時の最新アルバムからのヒット・シングルでもあり、好きではないと言いながらも何回かは演奏していた、とダウンズは述べている。
1983年12月の来日公演が何本だったのかは、当時のビルボードが東京発で伝えている。日本での公演は四本。うち三本が日本武道館で、一本が大阪だった。同じ記事は、この四公演がその翌年に日本でライヴ盤になるかもしれない、とも書いている。
衛星中継された武道館公演の日付は、資料によって12月6日とも7日とも書かれている。これは食い違いではなく時差である。ビルボードの東京発リポートは、公演が「先週水曜(7日)」に滞りなく行われたと書いている。1983年12月7日は水曜、6日は火曜である。米国側の日付が6日、日本側が7日で、同じ一夜を指している。会場は満員の一万人で、その中にはMTVの懸賞に当たった人々もいた。