NIGHTWISH
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)は、1996年にフィンランド (Finland) の東部、北カレリア (North Karelia) 地方に位置する小さな町、キテー (Kitee) で結成されたシンフォニック・メタル・バンドである。
Biography
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)
シンフォニック・メタルの軌跡と音楽的進化
1. 現代メタルにおけるシンフォニック・アプローチの確立
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)は、1996年にフィンランド (Finland) の東部、北カレリア (North Karelia) 地方に位置する小さな町、キテー (Kitee) で結成されたシンフォニック・メタル・バンドである。NIGHTWISHは、ヘヴィメタル (Heavy Metal) の攻撃的なリフとリズムに、クラシック音楽の壮大なオーケストレーション、映画音楽的なドラマツルギー、そしてオペラティックなボーカルスタイルを融合させることで、1990年代後半以降のメタルシーンに革命をもたらした存在として位置づけられる。
バンドの中心人物であり、主要なコンポーザーであるキーボーディストのツォーマス・ホロパイネン (Tuomas Holopainen) の音楽的ビジョンは、単なるバンドサウンドの枠を超え、聴き手を幻想的な物語や深遠な哲学的思索へと誘う 「総合芸術」としての側面を強く持っている。結成から約30年が経過した現在、NIGHTWISHはフィンランド (Finland) で最も商業的に成功したバンドの一つであり、世界中で900万枚以上のレコード売上を記録し、60以上のゴールドおよびプラチナ認定を受けている。
2. バイオグラフィ: 創造と再生の年代記
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH) の歴史は、順風満帆なサクセスストーリーではなく、メンバーの脱退や解雇、健康問題といった幾多の困難を乗り越えながら、その都度音楽的に進化を遂げてきた「再生」の物語である。
2.1 起源: アコースティックな焚き火の夢 (1996年)
全ての始まりは1996年7月6日の夜、キテー (Kitee) にあるピュハヤルヴィ湖 (Lake Pyhäjärvi) に浮かぶ島のキャンプファイヤーであった。当時、ダークウッズ・マイ・ビトロスド (Darkwoods My Betrothed) など複数のバンドでセッション・キーボーディストとして活動していたツォーマス・ホロパイネン (Tuomas Holopainen)は、自身の音楽的アイディアを形にするためのプロジェクトを構想していた。
当初の彼のビジョンは、ヘヴィメタルではなく、アコースティック・ギター、フルート、ピアノ、そして女性ボーカルを用いた「ムード音楽(mood music)」または「アコースティックなキャンプファイヤー音楽」を作ることであった。この構想に基づき、彼は友人のギタリスト、エルノ"エンプ" ヴオリネン (Erno "Emppu" Vuorinen) を誘い、さらに彼らと同じ音楽教師プラメン・ディモフ (Plamen Dimov) の下で学んでいた声楽家、ターヤ・トゥルネン (Tarja Turunen) にボーカルとしての参加を依頼した。
1996年の10月から12月にかけて、彼らは最初のデモテープを録音した。このデモには「NIGHTWISH」、「The Forever Moments」、「Etiäinen」の3曲が収録されており、バンド名「ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)」はこの1曲目のタイトルに由来している。この時点でのサウンドはまだメタルではなく、実験的なアコースティック・プロジェクトの域を出ていなかったが、ターヤ (Tarja) のドラマティックで力強いソプラノ・ボイスは、アコースティックな楽器構成だけでは支えきれないほどの圧倒的な存在感を持っていた。
2.2 メタルへの転換とデビュー (1997年)
ターヤ (Tarja)の声質のポテンシャルに気づいたホロパイネン (Holopainen)は、アコースティック路線を変更し、ドラムとエレクトリック・ギターを加えたヘヴィメタル・サウンドへと舵を切る決断を下した。1997年初頭、ドラマーとしてユッカ"ユリウス"ネヴァライネン (Jukka "Julius" Nevalainen)が加入し、アコースティック・ギターはエレクトリック・ギターへと持ち替えられた。
1997年4月、バンドはスタジオに入り、7曲を録音した。これが後にデビュー・アルバム『エンジェル・フォール・ファースト (Angels Fall First)』の核となる。同年5月、NIGHTWISHはスパインファーム・レコード (Spinefarm Records) と契約を結び、11月にデビュー・アルバムをリリースした。
- デビュー・ライブ: 1997年12月31日、NIGHTWISHの故郷キテー (Kitee) にあるフヴィケスクス (Huvikeskus) にて、バンドは初のライブパフォーマンスを行った。観客数は400人を超え、メンバーは極度の緊張状態にあったが、ライブは成功を収めた。
この時期の音楽性は、パワー・メタル (Power Metal) の疾走感と、ホロパイネン (Holopainen) のキーボードによるシンフォニックな旋律、そして時折顔を出すフォーク・ミュージック (Folk Music) の要素が混在しており、まだ粗削りながらも独自の世界観を築き始めていた。
2.3 黄金期の到来とメンバーの変遷 (1998年-2001年)
1998年、ベーシストとしてサミ・ヴェンスケ (Sami Vänskä) が正式に加入し、バンドのラインナップが安定した。同年リリースされた2ndアルバム 『オーシャンボーン (Oceanborn)』は、テクニカルで高速な演奏とクラシカルな要素が融合し、バンドの評価を決定づける作品となった。
続く2000年の3rdアルバム 『ウィッシュマスター (Wishmaster)』は、フィンランド (Finland) のチャートで初登場1位を獲得し、わずか数週間でゴールド・ディスクに認定された。この時期、バンドはユーロビジョン・ソング・コンテスト (Eurovision Song Contest) のフィンランド国内予選に参加し、視聴者投票で圧倒的な支持を得たものの、審査員票の影響で代表選出を逃すという出来事があった。これは逆にファンの結束を強め、バンドの人気を後押しする結果となった。
しかし、この時期のバンド内部では、音楽性の方向性と人間関係をめぐる対立が表面化し始めていた。2001年、ホロパイネン (Holopainen) は解散も考えたが、マネージメントの変更とベーシストの交代を条件に、活動を継続することを決断する。その結果、サミ・ヴェンスケ (Sami Vänskä) は「音楽性の違い」を理由に解雇された。
2.4 マルコ・ヒエタラの加入と『センチュリー・チャイルド』 (2002年-2003年)
2001年、後任のベーシストとして、ベテラン・バンドであるタロット (Tarot) のマルコ・ヒエタラ (Marko Hietala) が加入した。彼の加入はナイトウィッシュ (NIGHTWISH) にとって決定的な転換点となった。
- ボーカルのコントラスト: マルコ (Marko) の荒々しく野性味のあるボーカルは、ターヤ(Tarja)の清廉なソプラノと対比され、「美女と野獣 (Beauty and the Beast)」スタイルのダイナミクスを生み出した。
- ヘヴィネスの増大: マルコ (Marko) の影響により、ベースとギターのチューニングが下げられ、サウンド全体がより現代的でヘヴィなものへと変化した。
この新体制で制作された2002年のアルバム『センチュリー・チャイルド (Century Child)』は、過去のファンタジー路線から一転し、「無垢の喪失 (loss of innocence)」 という内省的でダークなテーマを扱った。本作では初めて生のオーケストラが導入され、シンフォニック・メタルの完成形へと近づいた。
2.5 『ワンス』の世界的成功と決別 (2004年-2005年)
2004年、ロンドン・セッション・オーケストラ (London Session Orchestra) を起用した5thアルバム『ワンス (Once)』 がリリースされた。このアルバムは制作費だけで約25万ユーロ(ミュージックビデオを含めると100万ユーロ)を投じた超大作であり、アメリカ(United States) でのブレイクスルーを果たした。シングル 「ニモ (Nemo)」 や 「ウィッシュ・アイ・ハド・アン・エンジェル (Wish I Had an Angel)」はMTV等で頻繁にオンエアされ、バンドの名声は頂点に達した。
しかし、2005年10月21日、ヘルシンキ (Helsinki) のハートウォール・アリーナ (Hartwall Arena) で行われたワールドツアー最終公演「エンド・オブ・アン・エラ (End of an Era)」の直後、バンドの歴史を揺るがす事件が起きた。ホロパイネン (Holopainen) と他のメンバーは、ターヤ (Tarja) に対して一通の公開書簡 (オープンレター)を手渡し、彼女をバンドから解雇したのである。書簡には、彼女の姿勢の変化、金銭的な執着、そして夫でありマネージャーのマルセロ・カブリ (Marcelo Cabuli) の影響に対する批判が綴られていた。これにより、初代ボーカリストの時代は幕を閉じた。
2.6 新たな歌姫アネット・オルゾンと『ダーク・パッション・プレイ』 (2006年-2012年)
ターヤ (Tarja) 脱退後の混乱とバッシングの中で、ホロパイネン (Holopainen) は自身の精神的苦痛を創作へと昇華させた。2007年、2,000人以上の応募者の中から選ばれたスウェーデン (Sweden) 出身のアネット・オルゾン (Anette Olzon) が新ボーカリストとして発表された。アネット (Anette) の声質はターヤ (Tarja) とは対照的で、よりポップでストーリーテリングに適したスタイルであった。
同年リリースされた6thアルバム『ダーク・パッション・プレイ (Dark Passion Play)』は、冒頭の14分に及ぶ大曲 「ザ・ポエット・アンド・ザ・ペンデュラム (The Poet and the Pendulum)」において、ホロパイネン (Holopainen) が自身の「死」と「再生」を描くなど、極めて個人的かつ感情的な作品となった。このアルバムは世界中で200万枚近くを売り上げ、ボーカリスト交代による危惧を払拭した。
2011年には、同名の映画と連動したコンセプト・アルバム 『イマジナエラム (Imaginaerum)』を発表。ジャズ、サーカス音楽、映画音楽の要素を取り入れた多彩な楽曲群は、アネット (Anette) の表現力を最大限に活かしたものであった。しかし、2012年のツアー中、アネット (Anette) が病気で入院した際に代役を立ててライブを行ったことをきっかけにバンドとの関係が悪化し、彼女はツアーの途中で脱退することとなった。
2.7 フロール・ヤンセンの加入と進化論への傾倒 (2013年-2019年)
ツアー中の緊急事態に対し、元アフター・フォーエヴァー (After Forever) のオランダ (Netherlands) 人ボーカリスト、フロール・ヤンセン (Floor Jansen) が急遽招聘された。彼女はわずか数日のリハーサルでセットリストを覚え、ツアーを完遂した。その圧倒的な歌唱力とステージ・パフォーマンス、そしてバンド内の良好な化学反応により、2013年に彼女は正式メンバーとして迎え入れられた。同時に、長年セッション・ミュージシャンとして帯同していた英国人のマルチ奏者、トロイ・ドノックリー (Troy Donockley) も正式メンバーとなった。
- ユッカ・ネヴァライネンの活動休止: 2014年8月、ドラマーのユッカ・ネヴァライネン (Jukka Nevalainen)は、長年患っていた重度の不眠症 (insomnia) を理由に、バンド活動からの離脱を発表した。彼の声明では、演奏の精度を維持できないことへの苦悩が語られており、バンドのビジネス面の管理には引き続き関わるものの、ドラマーとしての地位はカイ・ハヒト (Kai Hahto) に譲ることが明かされた (2019年に正式に引退・交代が確定)。
新体制となったバンドは、2015年に8thアルバム『エンドレス・フォームズ・モスト・ビューティフル (Endless Forms Most Beautiful)』をリリース。進化生物学者リチャード・ドーキンス (Richard Dawkins) の著作に強く影響を受けた本作は、進化論、科学、自然の美しさをテーマにした壮大な「科学賛歌」となった。
2.8 パンデミック、マルコの脱退、『イェスターウィンド』、そしてフロール・ヤンセンとの別れ (2020年-現在)
2020年、バンドは初のダブルアルバム『ヒューマン・ネイチャー (Human. :||: Nature.)』をリリース。ディスク1はバンド楽曲、ディスク2は全編オーケストラによるインストゥルメンタルという構成で、人間性と自然の対比を描いた。
しかし、パンデミックによるツアー延期中の2021年1月、長年バンドの顔の一人であったマルコ・ヒエタラ (Marko Hietala) が突如脱退を発表した。彼の声明では、ストリーミング会社による収益の搾取や音楽業界の現状への深い幻滅、そして自身の慢性的な鬱 (chronic depression)が理由として挙げられ、「この生活に正当性を感じられなくなった」と語られた。
マルコ (Marko)の後任として、ウィンターサン (Wintersun) のベーシストであるユッカ・コスキネン (Jukka Koskinen) が2021年のバーチャル・ライブから参加し、2022年8月に正式メンバーとなった。
2024年9月、通算10作目となるアルバム 『イェスターウィンド (Yesterwynde)』がリリースされた。本作は『エンドレス・フォームズ・モスト・ビューティフル』 から続く三部作の完結編と位置付けられ、時間、記憶、歴史、そして過去の世代とのつながりをテーマにしている。しかし、バンドはこのアルバムに伴うツアーを行わず、無期限のツアー活動休止期間に入ることを発表した。当時ボーカルを務めていたフロール・ヤンセン (Floor Jansen) は、この休止について「解散ではなく、あくまで休息 (break) である」と強調していた。
2026年8月には、結成30周年を記念する作品『The Greatest 30 Years On Earth』が同年12月11日に発売されると発表された。2022年のアムステルダム (Amsterdam) 公演と2023年の故郷キテー (Kitee) 公演の音源と映像、そしてホロパイネン (Holopainen) に焦点を当てたドキュメンタリーを収める。同じ8月、ホロパイネンは11作目のアルバムに向けて既に6曲を書き上げたと語っている。
2026年10月15日、NIGHTWISHとフロール・ヤンセン (Floor Jansen) は、熟慮の末に双方の合意のもとで別々の道を歩むと発表した。バンドは、NIGHTWISHはこれからも続き、2027年にスタジオに入って新作アルバムを録音すると表明した。声明は後任のボーカリストには触れていない。フロール・ヤンセンはソロ活動に専念し、2作目のソロ・アルバム『Hytress』は2027年1月15日発売。
3. メンバー構成の詳細
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)のサウンドは、各メンバーの卓越した技術と個性の集合体である。ここでは、各メンバーの役割と背景を詳細に記述する。
3.1 現行メンバー (Current Members)
| 名前 (日本語 / 英語) | 担当パート | 活動期間 | 背景・備考 |
|---|---|---|---|
| ツォーマス・ホロパイネン (Tuomas Holopainen) |
Keyboards, Piano, Songwriting | 1996年-現在 | 創設者・リーダー。バンドのほぼ全ての楽曲を作詞作曲する。ディズニー(Disney) や映画音楽、J.R.R. トールキン (J.R.R. Tolkien) から多大な影響を受けており、バンドの音楽的方向性を決定づける「魂」である。 |
| エンプ・ヴオリネン (Emppu Vuorinen) |
Guitars | 1996年-現在 | 創設メンバー。初期はアコースティックギターも担当。派手なソロよりも楽曲全体の調和を重視したリフワークが特徴だが、テクニカルなプレイもこなす。バンド内で最も控えめな性格として知られる。 |
| トロイ・ドノックリー (Troy Donockley) |
Uilleann pipes, Tin whistle, Low whistle, Guitars, Bouzouki, Vocals | 2013年-現在 | 英国カンブリア (Cumbria) 出身。アイオナ (Iona) などのバンドで活動後、2007年からゲスト参加。彼の加入により、バンドサウンドに本格的なケルト音楽 (Celtic Music) の要素が定着した。「Yesterwynde」 という言葉の考案者でもある。 |
| カイ・ハヒト (Kai Hahto) |
Drums, Percussion | 2019年-現在 | フィンランド (Finland) のヴァーサ (Vaasa) 出身。ウィンターサン (Wintersun) やロッテン・サウンド (Rotten Sound) での活動で知られる超絶技巧ドラマー。ユッカ・ネヴァライネンの推薦により加入。 |
| ユッカ・コスキネン (Jukka Koskinen) |
Bass | 2022年-現在 | フィンランド (Finland) 出身。ウィンターサン (Wintersun)のベーシストとしても活動。マルコ・ヒエタラ脱退後のツアーサポートを経て正式加入。指弾きを主体とした堅実なプレイスタイルを持つ。 |
3.2 主要な旧メンバー (Former Members)
| 名前 (日本語 / 英語) | 担当パート | 活動期間 | 脱退/交代の経緯 |
|---|---|---|---|
| ターヤ・トゥルネン (Tarja Turunen) |
Vocals | 1996年-2005年 | 初代ボーカリスト。シベリウス音楽院 (Sibelius Academy)で学んだ正統派ソプラノ歌手。バンドの初期スタイル 「オペラティック・メタル」の象徴であったが、2005年の公開書簡により解雇。 |
| ユッカ・ネヴァライネン (Jukka Nevalainen) |
Drums | 1997年-2019年 | 創設期のドラマー。バンダナがトレードマーク。重度の不眠症(insomnia) により演奏活動が困難となり、自ら身を引いた。現在はバンドのビジネス管理に関与している。 |
| マルコ・ヒエタラ (Marko Hietala) |
Bass, Vocals | 2001年-2021年 | バンドの黄金期を支えた「第二の声」。強烈な存在感とソングライティング能力を持っていたが、鬱や業界への不信感から脱退。 |
| アネット・オルゾン (Anette Olzon) |
Vocals | 2007年-2012年 | 2代目ボーカリスト。ポップな感性でバンドの商業的成功を拡大したが、ツアー中のトラブルにより脱退。 |
| フロール・ヤンセン (Floor Jansen) |
Vocals | 2013年-2026年 | 3代目ボーカリスト。オランダ (Netherlands) 出身。身長180cmを超える長身とカリスマ性を持ち、ソプラノ、パワフルなベルティング、さらにはグロウル (デスボイス)まで使い分ける。2012年のツアー途中から参加し、2013年に正式加入。『Endless Forms Most Beautiful』『Human. :||: Nature.』『Yesterwynde』の3作で歌った。2026年10月15日、双方の合意によりバンドを離れることが発表された。 |
| サミ・ヴェンスケ (Sami Vänskä) |
Bass | 1998年-2001年 | 『オーシャンボーン』 『ウィッシュマスター』期のベーシスト。ホロパイネンとの不和により解雇された。 |
4. ディスコグラフィ
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)のアルバムは、それぞれがバンドの進化の段階を表している。以下に全スタジオアルバムの詳細データを記述する。
4.1 スタジオ・アルバム (Studio Albums)
1. エンジェル・フォール・ファースト - Angels Fall First (1997)
概要: デビュー作。アコースティックなデモ音源とパワー・メタルの楽曲が混在しており、フォーク・メタルの要素が強い。ホロパイネン (Holopainen) 自身がボーカルをとる曲も含まれているが、彼自身は後にこれを「未熟だった」と振り返り、二度と歌わないと公言している。
主要曲:
- Elvenpath (エルヴェンパス): 『指輪物語』のロリアンなどの地名が登場するファンタジー色の強い楽曲。
- The Carpenter (ザ・カーペンター): シングルカットされ、バンド初のヒットとなった。
2. オーシャンボーン - Oceanborn (1998)
概要: バンドの評価を決定づけた作品。ストラトヴァリウス (Stratovarius) 等の影響を受けたスピーディーなパワー・メタルと、ターヤ (Tarja) のオペラティックなボーカルが完全に融合した。
主要曲:
- Stargazers (スターゲイザーズ): 宇宙への憧憬を歌った高速ナンバー。
- Sacrament of Wilderness (サクラメント・オブ・ウィルダネス): キャッチーなメロディで人気を博した。
- Walking in the Air (ウォーキング・イン・ジ・エアー): アニメ映画『スノーマン』のテーマ曲のカバー。
3. ウィッシュマスター - Wishmaster (2000)
概要: 『オーシャンボーン』の路線を継承しつつ、より壮大で洗練されたアレンジが施された。ソングライティングの完成度が高まり、"究極のシンフォニック・パワー・メタル・アルバム"と評されることもある。
主要曲:
- Wishmaster (ウィッシュマスター): ファンタジー文学へのオマージュが詰まったタイトル曲。
- Dead Boy's Poem (デッド・ボーイズ・ポエム): ホロパイネンの内面を吐露した長尺のバラード。
4. センチュリー・チャイルド - Century Child (2002)
概要: マルコ・ヒエタラ (Marko Hietala) 加入後の初アルバム。実際のオーケストラを導入し、サウンドがより重厚かつダークになった。歌詞のテーマも内省的になり、「無垢の喪失」が描かれている。
主要曲:
- Bless the Child (ブレス・ザ・チャイルド): シンフォニックな導入部が印象的なオープニング曲。
- The Phantom of the Opera (オペラ座の怪人): アンドリュー・ロイド・ウェバー (Andrew Lloyd Webber) の名曲カバー。ターヤとマルコのデュエットの代名詞となった。
- Ever Dream (エヴァー・ドリーム): エモーショナルなメロディが際立つ楽曲。
5. ワンス - Once (2004)
概要: ターヤ在籍時最後のアルバム。ロンドン・セッション・オーケストラ (London Session Orchestra) を起用し、映画音楽のような壮大さを極めた。アメリカ市場でも成功を収めた。
主要曲:
- Nemo (ニモ): ラテン語で「誰でもない (No one)」を意味する、バンド最大のヒット曲の一つ。
- Ghost Love Score (ゴースト・ラヴ・スコア): 10分に及ぶ大作で、壮大なオーケストレーションとドラマティックな展開が特徴。リアクション動画などを通じて、現在でも新規ファンを獲得し続けている。
- Wish I Had an Angel (ウィッシュ・アイ・ハド・アン・エンジェル): インダストリアル・メタルの要素を取り入れた楽曲。
6. ダーク・パッション・プレイ - Dark Passion Play (2007)
概要: アネット・オルゾン (Anette Olzon)加入第一弾。制作費がフィンランド音楽史上最高額(当時)となった。ホロパイネンの精神的苦悩が色濃く反映されている。録音にはアビー・ロード・スタジオ (Abbey Road Studios) などが使用された。
主要曲:
- The Poet and the Pendulum (ザ・ポエット・アンド・ザ・ペンデュラム): 14分の大曲。自身の死と再生を描いた衝撃作。
- Amaranth (アマランス): キャッチーなメロディで大ヒットしたシングル。
- Bye Bye Beautiful (バイ・バイ・ビューティフル): ターヤへの決別を歌ったとされるアグレッシブな楽曲。
7. イマジナエラム - Imaginaerum (2011)
概要: 同名の映画と連動したコンセプト・アルバム。人生、死、夢、記憶をテーマにし、ジャズやフォークなど多様なジャンルを取り入れた実験的な作品。
主要曲:
- Storytime (ストーリータイム): 映画『スノーマン』などに影響されたファンタジックな楽曲。
- Last Ride of the Day (ラスト・ライド・オブ・ザ・デイ): ジェットコースターのような疾走感を持つライブの定番曲。
8. エンドレス・フォームズ・モスト・ビューティフル - Endless Forms Most Beautiful (2015)
概要: フロール・ヤンセン (Floor Jansen) 加入およびトロイ・ドノックリー (Troy Donockley)正式加入後の初アルバム。進化論をテーマにした「科学賛歌」的な内容。
主要曲:
- Élan (エラン): フォーク色が強く、生きる喜びを歌ったリードシングル。
- The Greatest Show on Earth (ザ・グレイテスト・ショー・オン・アース): 24分に及ぶ超大作。地球の誕生から人類の未来までを描く。
9. ヒューマン・ネイチャー - Human. :||: Nature. (2020)
概要: バンド初のダブルアルバム。ディスク1はバンド編成、ディスク2は全編オーケストラによるインストゥルメンタル 「All the Works of Nature Which Adorn the World」で構成。
主要曲:
- Noise (ノイズ): 現代のスマートフォン依存やデジタル社会への風刺を含んだ楽曲。
- Harvest (ハーヴェスト): トロイがリードボーカルの一部を担当するフォーク調の楽曲。
10. イェスターウィンド - Yesterwynde (2024)
概要: 三部作の完結編。アナログな質感やノスタルジーをテーマにしつつ、歴史と記憶、ヒューマニズムを賛美する。
- Yesterwynde (イェスターウィンド)
- An Ocean Of Strange Islands (アン・オーシャン・オブ・ストレンジ・アイランズ)
- The Antikythera Mechanism (ジ・アンティキティラ・メカニズム)
- The Day Of... (ザ・デイ・オブ・・・)
- Perfume Of The Timeless (パフューム・オブ・ザ・タイムレス)
- Sway (スウェイ)
- The Children Of 'Ata (ザ・チルドレン・オブ・アタ)
- Something Whispered Follow Me (サムシング・ウィスパード・フォロー・ミー)
- Spider Silk (スパイダー・シルク)
- Hiraeth (ヒライス)
- The Weave (ザ・ウィーヴ)
- Lanternlight (ランタンライト)
チャート動向: ストリーミング時代においては過去作ほどの爆発的なチャートアクションは見られず、これは音楽産業全体の傾向とも分析されている。
4.4 主なライブ・アルバム (Live Albums)
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH) の真価はライブ・パフォーマンスにあると言われ、各時代の節目に重要なライブ作品を残している。
- フロム・ウィッシーズ・トゥ・エタニティ - From Wishes to Eternity (2001): タンペレ (Tampere)でのライブ。初期の若々しいエネルギーが記録されている。
- エンド・オブ・アン・エラ - End of an Era (2006): ターヤ (Tarja) 最後の公演。感情的かつ壮大なパフォーマンスで、バンド史上最も重要な映像作品の一つとされる。
- ショータイム、ストーリータイム - Showtime, Storytime (2013): フロール・ヤンセン (Floor Jansen)加入直後のヴァッケン・オープン・エア (Wacken Open Air)でのライブ。8万人の観衆を前に彼女がバンドを掌握する姿が収められている。
- ヴィークル・オブ・スピリット - Vehicle of Spirit (2016): ウェンブリー・アリーナ (Wembley Arena) とタンペレ・スタジアム (Ratina Stadion) での公演を収録。バンドがアリーナ級の成功を収めていることを証明する作品。
5. 音楽性とテーマの深層
5.1 歌詞と世界観の変遷
ツォーマス・ホロパイネン (Tuomas Holopainen)の描く世界は、バンドの歴史と共に大きく変遷してきた。
- ファンタジーへの逃避 (初期): 『Angels Fall First』 から 『Wishmaster』にかけては、エルフ、魔術師、星々といったファンタジー要素が支配的であった。これはホロパイネン自身が「現実逃避」として音楽を作っていたことに起因する。
- 個人的な受難 (中期): 『Century Child』 から 『Dark Passion Play』にかけては、失恋、バンド内の確執、メディアからのバッシングといった「個人の痛み」が赤裸々に綴られた。特に「The Poet and the Pendulum」では、彼自身が八つ裂きにされる描写があるほど、自己破壊的な側面が見られた。
- 科学的ヒューマニズムと畏敬 (後期): フロール・ヤンセン (Floor Jansen)加入以降、特に『Endless Forms Most Beautiful』からは、リチャード・ドーキンス (Richard Dawkins) やカール・セーガン (Carl Sagan) の影響を受け、現実世界の驚異、進化の奇跡、時間と記憶といったテーマへと移行した。これは「魔法」をファンタジーの中ではなく、現実の科学や自然の中に見出すという、ホロパイネンの成熟を示している。
5.2 シンフォニック・サウンドの構造
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)のサウンドは、単にオーケストラを背景に流すだけではない。NIGHTWISHの楽曲におけるオーケストラは、ギターやドラムと同等の「リード楽器」として機能している。
- パイプ・ウィリアムズ (Pip Williams) の貢献: 『Once』から『Human.:||: Nature.』まで、オーケストラ編曲を務めたパイプ・ウィリアムズ (Pip Williams) の功績は大きい。彼はホロパイネンのキーボード・デモを、実際のオーケストラ譜面へと翻訳し、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(London Philharmonic Orchestra)などの演奏を引き出した。
- アビー・ロード・スタジオ (Abbey Road Studios): バンドは『Dark Passion Play』以降、ロンドンの伝説的なスタジオであるアビー・ロード・スタジオでオーケストラや合唱の録音を行っている。この空間の音響特性が、NIGHTWISHの壮大なサウンドスケープを支えている。
6. 展望
ナイトウィッシュ (NIGHTWISH)は、フィンランド (Finland) のキテー (Kitee) という小さな町から出発し、シンフォニック・メタルというジャンルを定義し、世界的なスタジアム・バンドへと成長した。NIGHTWISHの歴史は、メンバーの交代という危機を、音楽的な進化の機会へと変えてきた歴史でもある。
最新作『イェスターウィンド (Yesterwynde)』をもって、科学と自然をテーマにした三部作は完結した。バンドは2023年からツアー活動を休んでいるが、2026年10月にフロール・ヤンセン (Floor Jansen) との別れを発表した際、NIGHTWISHはこれからも続き、2027年にスタジオに入って新作アルバムを録音すると明言した。この声明は後任のボーカリストには触れていない。
ストリーミング全盛の時代において、アルバムというフォーマットにこだわり、数十分の長尺曲やオーケストラを駆使するNIGHTWISHのスタイルは、一見時代に逆行しているように見えるかもしれない。しかし、その妥協なき芸術性こそが、世界中のファン (通称: オーシャンソウルズ / Oceansouls) を魅了し続ける理由であり、NIGHTWISHがメタル史にその名を刻み続ける所以なのである。
Trivia
2022年10月、ナイトウィッシュの来日公演が発表された。<NIGHTWISH Japan Tour 2023>と題されたこのツアーは、2023年1月25日に大阪のなんばHatch、1月27日と28日に東京のEX THEATER ROPPONGIという3公演の予定だった。前回の来日から実に6年半が経っていた。
ツアーを休んでいる間も、『Yesterwynde』は舞台に上がっている。公式サイトが伝えているのは、タンペレでの3公演が完売し6,000人が聴いたあと、このアルバムをオーケストラで演奏する催しが2026年3月21日にヘルシンキのムジイッキタロ(音楽センター)で行われたということである。演奏したのはヴァンター管弦楽団とタンペレ・オペラ合唱団、そして児童合唱団で、指揮はエーロ・レフティマキが執った。
ツォーマス・ホロパイネンは、自分たちのアルバムを1位から9位まで順位付けしたことがある。上から『Human. :||: Nature.』(2020年)、『Endless Forms Most Beautiful』(2015年)、『Oceanborn』(1998年)、『Once』(2004年)、『Imaginaerum』(2011年)、『Dark Passion Play』(2007年)、『Century Child』(2002年)、『Angels Fall First』(1997年)、そして最下位が『Wishmaster』(2000年)である。
ホロパイネンが最下位に置いたのは『Wishmaster』だった。フィンランドでチャート1位を取った作品であることは彼自身が認めているが、彼にとってこれは「あいだ」のアルバムのひとつで、個人的な水準では際立って感じられない。『Oceanborn』のあとに来たものとして、革命的なところが何も無かったからだ、というのがその説明である。
メタリカがナイトウィッシュに与えた影響について、ホロパイネンは、あのバンドが無ければ自分たちは今の場所にいないと思う、という言い方をしている。そして彼はひとつの場面を挙げた。1年ほど前、おそらくベルギーだったと思うフェスティバルで、最後の曲を終えてステージを降りたところにジェイムズ・ヘットフィールドがいて、彼の背中を叩いたのである。そのときホロパイネンの口から出たのは短い驚きの言葉だけだった。ヒーローには会うな、とはよく言ったものだ、と彼は付け加えている。
2021年1月にマルコ・ヒエタラが脱退したとき、ツォーマス・ホロパイネンはバンドが終わったと思った。彼の言い方では、あれは打ちのめされる出来事だった。ヒエタラが抱えていた問題は知っていたが、それでも全員にとって大きな衝撃だった。48時間ほどのあいだ、彼はこれでバンドは終わりだと確信していたという。エンプ・ヴオリネンに電話をかけ、また起きたぞ、これで終わりだと思うか、と笑い合ったことを彼は覚えている。
この休止の発表で、バンドは理由として考えられがちな2つのことを名指しで否定している。声明が述べているのは、理由は個人的なものだが、バンドの健全さと将来にとって不可欠だと全員が同意しているということ。そして自分たちは今も一緒に働くのが好きだということ。そのうえで、この決定はフロール・ヤンセンの妊娠とも、各自の別プロジェクトとも一切関係が無い、とわざわざ書き添えられていた。
ナイトウィッシュが変わった生き物なのは、メンバーが実際にお互いといるのを好きだからだ、というのがトロイ・ドノックリーの言い分である。バンドとしては珍しいことで、楽屋を別々にするような話も多い中で、彼らは仕事でないときにも一緒に過ごし、互いといて楽しいのだという。その具体例として彼が挙げたのは、前の年にエンプ・ヴオリネンとツォーマス・ホロパイネンがイギリスのヨークシャーまでやって来て、1週間ずっと金属探知機を持って遊んでいたことだった。それが自分たちのやることで、しかもものすごく楽しい、と彼は述べている。
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