SHAMAN
プログレッシブ・パワーメタル (Progressive Power Metal) の世界的歴史において、南米ブラジルのサンパウロ (São Paulo) で結成されたヘヴィメタルバンド、SHAMAN(一時期は Shaaman と表記)が果たした役割は極めて大きい。
Biography
ブラジル発プログレッシブ・パワーメタルの至宝
SHAMANの歴史的変遷、音楽的遺産、ディスコグラフィ
1. Introduction
プログレッシブ・パワーメタル (Progressive Power Metal) の世界的歴史において、南米ブラジルのサンパウロ (São Paulo) で結成されたヘヴィメタルバンド、SHAMAN(一時期は Shaaman と表記)が果たした役割は極めて大きい。
SHAMANの音楽的特質は、クラシック音楽の優美さ、ヘヴィメタル (Heavy Metal) の攻撃性、そしてブラジル特有の民族音楽(ワールドミュージック)のポリリズムを高度に融合させた点にある。単なる前身バンドからの派生という枠を超え、彼らは独自のダークでスピリチュアルな世界観を構築した。
2. 結成の背景と初期の苦難: ANGRAからの独立 (2000年-2001年)
2.1 分裂劇とプロジェクトの胎動
SHAMANの歴史は、2000年後半にブラジルの世界的メタルバンドである ANGRAで起きた大規模な分裂劇に端を発する。当時のマネジメントとの深刻な対立により、ボーカル兼キーボードの Andre Matos (アンドレ・マトス)、ベースの Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ)、ドラムの Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ) の3名が同バンドを脱退した。この脱退劇は、世界のヘヴィメタルシーンに多大な衝撃を与えた。
脱退直後、Andre Matos (アンドレ・マトス)は音楽業界そのものに深く失望し、ヘヴィメタル (Heavy Metal) シーンからの引退を真剣に考慮していた。後にSHAMANの初代マネージャーとなる Paulo Baron (パウロ・バロン)の証言によれば、2000年末に彼が Matosの自宅に滞在した際、Matos が ANGRA時代の名盤『Angels Cry』(エンジェルズ・クライ)のゴールドディスクを自ら破壊している姿を目撃するほど、その精神状態は追い詰められていたという。しかし、Baron の強い説得と音楽への情熱の再燃により、3人は新たなプロジェクトを立ち上げることを決意した。
2.2 ラインナップの完成とバンド名の由来
当初、新プロジェクトには専任のギタリストが不在であったため、Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ) の実弟であり、HENCEFORTH (ヘンスフォース) というバンドで活動していた Hugo Mariutti (ウーゴ・マリウッティ)が、作曲のサポートとして招集された。Hugo の提供するヘヴィでグルーヴ感のあるプレイスタイルは、バンドが新たに求めていたダークな音楽性に完璧に合致したため、彼は正式なギタリストとして迎え入れられ、ここに第一期のクラシック・ラインナップが完成した。
バンド名は、Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ)の提案により SHAMANと命名された。これは、ANGRA時代の名盤『Holy Land』 (ホーリー・ランド)に収録されている Andre Matos (アンドレ・マトス) 作曲の楽曲「The Shaman」からインスピレーションを得たものである。
2.3 地道なライブ活動とプレ・ツアー
結成直後の彼らは、直ちに世界的なスターダムに返り咲いたわけではない。バルネアーリオ・カンボリウー (Balneário Camboriú) などで行われた初期のライブは、観客が100人にも満たない小規模なものであったが、彼らは地道な活動を継続した。アルバムリリース前の2001年には、早くもヨーロッパやラテンアメリカを巡るプレ・ツアーを敢行し、2001年2月10日にはレシフェ (Recife) で国内初公演を、同年5月31日にはフランス のコロンブ (Columbes) で開催された NTS Records Festival (NTS・レコード・フェスティバル)で初の海外公演を行った。
このプレ・ツアーにおけるセットリストは、未発表のオリジナル曲に加え、ANGRAや VIPER (ヴァイパー) 時代の楽曲、さらには METALLICA (メタリカ)、IRON MAIDEN (アイアン・メイデン)、BLACK SABBATH (ブラック・サバス)、DEEP PURPLE (ディープ・パープル)、OZZY OSBOURNE (オジー・オズボーン)、MOTORHEAD (モーターヘッド)、JUDAS PRIEST (ジューダス・プリースト)、AVANTASIA (アヴァンタジア)などの多彩なカバー曲で構成されていた。また、テレビ局 TV Cultura (TV クルトゥラ)の音楽番組『Musikaos』 (ムジカオス) (司会: Gastão Moreira (ガスタン・モレイラ))に出演するなど、メディア露出も積極的に行った。この時期、キーボードのライブサポートとして、元 ANGRAのサポートメンバーでもあった Fábio Ribeiro (ファビオ・リベイロ)が参加し、サウンドに厚みをもたらした。
3. 第一期黄金時代: 『Ritual』(リチュアル)の世界的成功と社会現象(2002年-2004年)
3.1 デビューアルバムの制作と音楽的達成
2002年1月、バンドはドイツに渡り、長年の盟友であり著名なプロデューサーである Sascha Paeth (サシャ・ピート)の指揮のもと、デビューアルバム『Ritual』 (リチュアル)のレコーディングを開始した。本作の特筆すべき点は、オーケストレーションやメタルサウンドの基盤をドイツで録音する一方で、パーカッションや民族楽器の録音をブラジル国内で行い、両者を高度にミックスしたことにある。
完成した『Ritual』(リチュアル)は、パワーメタル (Power Metal) の疾走感に、クラシック音楽の構築美、そしてブラジル特有のワールドミュージックの要素を完璧なバランスで融合させた傑作として、世界15カ国以上でリリースされた。フランス のチャートで101位、日本 (Japan) のオリコンチャート (Oricon Charts) で80位を記録するなど、国際的な成功を収めた。
3.2 メロドラマへの起用とスタジアム公演
特に、Andre Matos (アンドレ・マトス)が作曲したバラード「Fairy Tale」は、ブラジルの最大手テレビ局 Rede Globo (ヘジ・グローボ)の人気メロドラマ『O Beijo do Vampiro』 (オ・ベイジョ・ド・ヴァンピーロ)の公式サウンドトラックに採用された。ブラジルのヘヴィメタルバンドの楽曲が国民的なメロドラマに起用されるのは史上初の快挙であり、これにより SHAMANの知名度はメタルファン層を超え、一般大衆にまで広く浸透した。
彼らの成功はライブの規模にも如実に表れた。Folha de Sao Paulo (フォーリャ・ジ・サンパウロ) 紙の読者投票で最高評価を獲得し、2004年にはパカエンブー競技場 (Pacaembu Stadium) にて行われたIRON MAIDEN (アイアン・メイデン)のサンパウロ (São Paulo) 公演のオープニングアクトを務め、45,000人の大観衆を熱狂させた3。
3.3 ライブ作品 『RituAlive』 (リチュアライヴ)の金字塔
2003年、第一期の頂点を示す証として、サンパウロ (São Paulo) の Credicard Hall (クレディカード・ホール)にて大規模なライブCDおよびDVD『RituAlive』 (リチュアライヴ)の収録が行われた。この公演には、Tobias Sammet (トビアス・サメット - Edguy/Avantasia)、Andi Deris (アンディ・デリス - Helloween)、Michael Weikath (マイケル・ヴァイカート - Helloween)、 Sascha Paeth (サシャ・ピート)、そしてブラジルの著名なヴァイオリニスト Marcus Viana (マルクス・ヴィアナ) ら豪華ゲストが参加した。この映像作品は、当時のプログレッシブ・パワーメタル (Progressive Power Metal)シーンにおける最高傑作の一つとして、現在も高く評価されている。
4. 法的摩擦と音楽的転換: 改名問題と最初の分裂 (2005年-2006年)
4.1 SHAAMAN (Shaaman) への改名騒動
順風満帆に見えたバンドであったが、2005年に予期せぬ法的問題に直面する。同名のアーティストが複数存在すること(後にKORPIKLAANI (コルピクラーニ)と改名するフィンランドのフォークメタルバンド SHAMAN や、1990年に商標登録されたアメリカのケルト音楽グループ SHAMAN など)による著作権上の懸念が浮上したのである。この法的リスクを回避するため、さらに数秘術師( Numerologist) からのスピリチュアルな助言も踏まえ、バンドは名前に「A」を一つ追加し、SHAAMAN (Shaaman) へと改名する決断を下した。
4.2 セカンドアルバム『Reason』(リーズン)による作風の変化
改名後の2005年8月にリリースされたセカンドアルバム『Reason』(リーズン)は、彼らの音楽性に大きな転換をもたらした。プロデューサーには引き続き Sascha Paeth (サシャ・ピート)と Philip Colodetti (フィリップ・コロデッティ)を起用し、Amanda Somerville (アマンダ・サマーヴィル) や Miro (ミロ)といったヨーロッパの辣腕ミュージシャンを配したものの、サウンド自体は前作のシンフォニックでプログレッシブなスタイルから、よりダークで直接的、かつ80年代のゴシック・ロック (Gothic Rock) やトラディショナルなヘヴィメタル (Heavy Metal) に傾倒したものとなった。
この変化を象徴しているのが、THE SISTERS OF MERCY (シスターズ・オブ・マーシー)の名曲「More」のカバー収録である。また、日本(Japan) 市場向けには JVC Victor (JVCビクター)からリリースされ、オリコンチャートで200位を記録した。しかし、この直接的なアプローチは、旧来のプログレッシブ・サウンドを愛好するファン層の間で賛否両論を巻き起こす結果となった。
4.3 第一期の崩壊とメンバーの分裂
『Reason』(リーズン) のリリースに伴う世界ツアーの後、2006年10月に突如としてバンドの活動休止、そして大規模な分裂が発表された。Andre Matos (アンドレ・マトス)、Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ)、Hugo Mariutti (ウーゴ・マリウッティ)の3名が正式にバンドを脱退したのである。
この分裂の深層には、明確な音楽的ビジョンの相違があった。Matos 側はよりメロディックでソロ・プロジェクト的な自由度を求めたのに対し、ドラムの Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ)はグルーヴ重視のヘヴィメタルを志向していた12。SHAMANという名称の商標権は Confessori が保持していたため、脱退したメンバーたちはキーボードの Fábio Ribeiro (ファビオ・リベイロ)を伴い、自身の名を冠した新バンド ANDRE MATOS (アンドレ・マトス)を結成し、完全に袂を分かつこととなった。
5. 第二期:コンフェッソーリによる再構築と新たなるサウンド (2007年-2013年)
5.1 新生 SHAMANの立ち上げ
単独でバンド名を引き継いだ Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ)は、2007年に全く新しいメンバーを集め、法的問題が解決したバンド名を再び SHAMANに戻して再始動した。新ボーカリストにはハイトーンと表現力に定評のある Thiago Bianchi (ティアゴ・ビアンキ)、ギタリストにテクニカルなシュレッド・プレイを得意とする Léo Mancini (レオ・マンシーニ)、ベーシストにFernando Quesada (フェルナンド・ケサーダ)を迎え、後にキーボーディストとして Junior Carelli (ジュニオール・カレッリ)が加入した。
5.2 『Immortal』(イモータル)によるアグレッシブな復活
2007年にリリースされたサードアルバム『Immortal』(イモータル)は、新生SHAMANの力強い復活を印象付ける作品となった。Bianchi のスティーヴ・ペリー (Steve Perry)を彷彿とさせる伸びやかなボーカルと、Mancini の怒涛のギターワークは、クラシック・ラインナップの叙情性とは異なる、よりストレートでアグレッシブな現代的パワーメタルサウンドを確立した。日本市場においては Avalon Marquee (アヴァロン・マーキー)からリリースされ、専用のボーナストラックが収録されるなど、手厚いプロモーションが行われた。
2008年には、サンパウロ (São Paulo) で開催された大規模なアニメイベント「Anime Friends (アニメ・フレンズ)」にて、約2万人の観客の前でライブDVD『Anime Alive 2008』(アニメ・アライブ 2008)を収録した。X JAPAN (エックス・ジャパン) の 「Kurenai (紅)」のカバーなども披露され、日本のアニメ・サブカルチャー文化とブラジルのメタルシーンの強い親和性を示す特筆すべき歴史的記録となった。
5.3 コンセプトアルバム 『Origins』(オリジンズ)とNoturnall (ノターナル)への分裂
2010年、第二期ラインナップは、シベリアの戦士 Amagat (アマガト)の神話的物語をテーマにした壮大なコンセプトアルバム『Origins』(オリジンズ)を発表した。民族音楽的要素を再び前面に押し出しつつ、オーケストレーションとモダンヘヴィネスを融合させた本作は高い評価を得た。同アルバムの限定盤には、チェコ (Czech Republic) のフェスティバルで収録されたフルオーケストラとの共演ライブDVD『Shaman & Orchestra - Live at Masters of Rock of Prague』が同梱され、音楽的なスケールの大きさを見せつけた。
しかし、2013年、次作『Nocturnal』 (ノクターナル)のレコーディング中という重要な時期に、バンドの創設者であり要であった Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ)がプロジェクトからの離脱を表明するという予期せぬ事態が発生した。残された Bianchi、Mancini、Quesada、Carelli の4人は、SHAMANの名を使用し続けることを諦め、元ANGRAのドラマーである Aquiles Priester (アキレス・プリースター)を迎え入れ、新たなバンド NOTURNALL (ノターナル)を結成した。これにより、第二期 SHAMANは事実上消滅したのである。
6. 奇跡の再結成、悲劇的な死、そして不死鳥の如き復活 (2018年-2022年)
6.1 ファンの熱意によるクラシック・ラインナップの復活
長年の沈黙の後、ファンの間でソーシャルメディアを中心に「#voltashaman (SHAMAN戻ってきて)」というハッシュタグ・キャンペーンが巻き起こり、数万件に及ぶ再結成の要望が寄せられた。この熱意に突き動かされる形で、2018年5月25日、Andre Matos (アンドレ・マトス)、Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ)、Hugo Mariutti (ウーゴ・マリウッティ)、Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ) という結成時のオリジナルメンバーによる奇跡の再結成が正式に発表された。
結成17周年を記念する再結成ツアーは大成功を収めた。サンパウロ (São Paulo) の Audio Club (オーディオ・クラブ)を皮切りに、ブラジリア (Brasília)、ベロオリゾンテ (Belo Horizonte)、リオデジャネイロ (Rio de Janeiro) などブラジル全土を巡り、KREATOR (クリエイター) や ARCH ENEMY (アーチ・エネミー)といった大物バンドとの共演も果たした。2019年には AVANTASIA (アヴァンタジア)のブラジル公演にスペシャルゲストとして出演するなど、バンドは完全な復活を遂げたかに見えた。
6.2 Andre Matos (アンドレ・マトス)の急逝
しかし、運命は残酷であった。再結成ツアーの熱狂冷めやらぬ2019年6月8日、フロントマンの Andre Matos (アンドレ・マトス)が急性心筋梗塞のため、47歳という若さで突如としてこの世を去ったのである。ブラジルのメタル界における最大のアイコンの一人であり、類稀なる才能を持った彼の死は、世界中のファンやミュージシャンに計り知れない悲しみをもたらした。彼の多大なる功績を永遠に讃えるため、サンパウロ市 (São Paulo City) の Bruno Covas (ブルーノ・コヴァス) 市長は6月8日を公式に「ヘヴィメタルの日 (Heavy Metal Day)」に制定し、パラナ州 (Paraná State) でも同様の記念日制定が行われた。
6.3 Alírio Netto (アリーリオ・ネット)の加入と不屈のアルバム『Rescue』(レスキュー)
Matos の死という絶望的な喪失を乗り越えるため、残されたメンバーは熟考の末、バンドを前進させる決断を下した。2019年9月、新たなボーカリストとして Alírio Netto (アリーリオ・ネット)の加入が発表された。彼は QUEEN EXTRAVAGANZA (クイーン・エクストラヴァガンザ)のリードシンガーを務め、AGE OF ARTEMIS (エイジ・オブ・アルテミス) やスペインのAVALANCH (アヴァランチ)などで卓越した演劇的歌唱力を証明してきた、ブラジル最高峰の実力派シンガーであった。
新体制となったバンドは、Matosへの敬意を込めた「Nagual Fly Tour (ナグアル・フライ・ツアー)」を敢行し、2020年には新曲「Brand New Me」を発表した。そして2022年、長年の恩人である Sascha Paeth (サシャ・ピート)を再びプロデューサーに迎え、ヴァイオリニストの Marcus Viana (マルクス・ヴィアナ)も参加した、12年ぶりとなるスタジオアルバム『Rescue』 (レスキュー) をリリースした。このアルバムは、深い悲しみや喪失の各段階を「ネガティブではない形」で美しく音楽に昇華させており、バンドのレジリエンス(回復力)と不屈の精神を体現した感動的な傑作として評価された。
7. イデオロギーの衝突と最終的な終焉:政治的分断がもたらした解散 (2023年)
アルバム『Rescue』 (レスキュー)により新たな黄金期を迎えるかに見えた SHAMANであったが、2023年1月、バンドは突如として完全に解散することとなる。その原因は音楽的な方向性の違いでも、ビジネス上のトラブルでもなく、現代のブラジル社会を深く分断している「深刻なイデオロギーの対立と政治的分極化」であった。
7.1 ブラジリア議会襲撃事件と Confessori のSNS投稿
2023年1月8日、ブラジルの首都ブラジリア (Brasília) において、前大統領 Jair Bolsonaro (ジャイール・ボルソナーロ)の支持者らによる連邦議会、大統領府、最高裁判所への襲撃事件という、民主主義の根幹を揺るがすテロ的暴動が発生した。この歴史的事件の直後、ドラムのRicardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ)は自身のソーシャルメディアにおいて、現大統領 Luiz Inácio Lula da Silva (ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ)を「偽の大統領」と痛烈に批判し、過去の左派の暴動映像を引き合いに出して、議会襲撃を相対化・擁護するかのような極右的な見解を投稿したのである。
この政治的投稿に対し、多くのファンがコメント欄で懸念と異議を表明した。その中の一人であり、ANGRA時代からの長年の熱心なファンで獣医師でもある Mateus Ferreira (マテウス・フェレイラ)が、「民主主義を支持し破壊行為を非難する代わりに、事態を正当化しようとしている」と論理的に批判を行った。これに対し Confessori は激昂し、Ferreira に対して「医学部を落ちた獣医」「オカマ (faggot)」 「ノンバイナリーのフェミニスト」といった、深刻なホモフォビア(同性愛嫌悪)およびトランスフォビア的な暴言、さらには職業を侮蔑するヘイトスピーチで返答するという、取り返しのつかない行動に出たのである。
7.2 倫理的決断によるバンドの即時崩壊
この Confessori の行動は、他のメンバーにとって人道上、到底看過できるものではなかった。翌日の2023年1月10日、ベーシストであり創設者のLuis Mariutti (ルイス・マリウッティ)は自身の Instagram で即時脱退を表明。「このエピソードは、現代の価値観、そして私たちの家族や子供たちに対する教育に全くそぐわない深刻な問題である」と厳しく非難した。その数分後には、弟のHugo Mariutti (ウーゴ・マリウッティ) も 「SHAMANの活動終了」を宣言した。
ボーカリストの Alírio Netto (アリーリオ・ネット)も直ちに公式声明を発表し、「いかなるホモフォビア、レイシズム、性差別、ヘイトスピーチ、共感の欠如も断固として拒絶する」と強い言葉で非難し、バンドを離脱した。こうして、四半世紀にわたりブラジルのメタルシーンを牽引してきた偉大なるバンドは、イデオロギーの対立と不寛容という現代社会の闇に飲み込まれる形で、修復不可能な最終的終焉を迎えたのである。
8. メンバー変遷の記録 (Biography)
SHAMANの歴史において、メンバーはバンドの音楽性を決定づける重要な要素であった。以下に、歴代の公式メンバーおよび重要なサポートメンバーの詳細な在籍期間と役割を示す。
| 氏名(日本語表記) | 氏名(英語表記) | 担当パート | 在籍期間 | 経歴・特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| アンドレ・マトス | Andre Matos | ボーカル/ピアノ/キーボード | 2000-2006, 2018-2019 | 創設者。元 VIPER, ANGRA。クラシックとメタルの融合を牽引。2019年急逝。 |
| ルイス・マリウッティ | Luis Mariutti | ベース/バックボーカル | 2000-2006, 2018-2023 | 創設者。元 ANGRA。重厚なベースラインで基盤を構築。解散を主導。 |
| リカルド・コンフェッソーリ | Ricardo Confessori | ドラム | 2000-2013, 2018-2023 | 創設者。唯一全期間在籍。ポリリズムを多用した独自のリズムを構築。 |
| ウーゴ・マリウッティ | Hugo Mariutti | ギター | 2000-2006, 2018-2023 | Luis の弟。 HENCEFORTH, VIPER。エモーショナルなギタープレイが特徴。 |
| ファビオ・リベイロ | Fábio Ribeiro | キーボード/ピアノ | 2000-2006, 2018-2022 (Live), 2022-2023 (Official) | 初期からライブを支え続け、最終期に正式メンバーへ昇格した功労者。 |
| ティアゴ・ビアンキ | Thiago Bianchi | ボーカル | 2007-2013 | 第二期のフロントマン。パワフルな高音域が特徴。後にNOTURNALL結成。 |
| レオ・マンシーニ | Léo Mancini | ギター | 2007-2013 | 第二期のギタリスト。テクニカルなシュレッドプレイでバンドを牽引。 |
| フェルナンド・ケサーダ | Fernando Quesada | ベース | 2007-2013 | 第二期のベーシスト。堅実なプレイと共に作曲面でも大きく貢献。 |
| ジュニオール・カレッリ | Junior Carelli | キーボード/ピアノ | 2012-2013 | 第二期末期に参加。優れた鍵盤奏者であり、映像ディレクターとしても活躍。 |
| アリーリオ・ネット | Alírio Netto | ボーカル | 2019-2023 | Matos の後任。QUEEN EXTRAVAGANZA等で活躍する世界トップクラスのシンガー。 |
9. ディスコグラフィ (Discography)
SHAMANの作品群は、ヨーロッパおよびブラジル本国でのリリースに加え、メロディック・メタルに親和性の高い日本市場に向けて非常に綿密な戦略が採られていた。日本のレコードレーベル (King Records / キングレコード、Avalon Marquee / アヴァロン・マーキー、JVC Victor / JVCビクター)からリリースされた各アルバムには、緻密な日本盤専用ボーナストラックが収録されている。
9.1 スタジオ・アルバム (Studio Albums)
| 発表年 | アルバムタイトル | 日本盤レーベル(規格品番) | グローバル盤レーベル | チャート・特記事項(日本盤ボーナストラック等) |
|---|---|---|---|---|
| 2002 | Ritual | King Records / Victor (VICP-61893) | Universal Music / Mercury | 仏101位、日80位。「Fairy Tale」収録。プロデュース: Sascha Paeth¹ |
| 2005 | Reason | JVC Victor | Deckdisc / AFM Records | Shaaman 名義でのリリース。日本チャート200位。「More」カバー収録。 |
| 2007 | Immortal | Avalon Marquee | Thurbo Music / Scarlet | 第二期初作品。日本盤専用ボーナストラック: 「In The Dark (Acoustic Version)」。 |
| 2010 | Origins | Avalon Marquee (MICP-10930) | Scarlet Records | Amagat の物語を描くコンセプト盤。日本盤は限定ボーナストラックを追加収録。 |
| 2022 | Rescue | King Records (KICP-4051) | Voice Music / Maldito | Alirio Netto 参加初作品。日本盤はボーナストラック「The Final Rescue」等収録 |
9.2 ライブ・アルバムおよび映像作品(Live Albums & DVDs)
彼らの圧倒的な演奏技術とオーディエンスの熱狂は、以下の映像作品に克明に記録されている。
| 発表年 | タイトル | フォーマット | 収録内容・特記事項 |
|---|---|---|---|
| 2001 | Pré-Ritual Tour - Live in São Paulo | Video / DVD | デビューアルバム発売前に行われた初期の貴重なライブ映像。 |
| 2003 | RituAlive | CD/DVD | サンパウロの Credicard Hall での熱狂的ライブ。Tobias Sammet 等豪華ゲスト多数参加 |
| 2009 | Anime Alive 2008 | DVD | 2008年の「Anime Friends」でのライブ。約2万人の前で演奏された記録。「Kurenai」カバー収録 |
| 2010 | Shaman & Orchestra Live at Masters of Rock of Prague | DVD | チェコでのフルオーケストラとの歴史的共演。『Origins』限定盤等に同梱。 |
9.3 シングルおよび EP (Singles & EPs)
| 発表年 | タイトル | 形態 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2001 | Demo | Demo | バンド結成直後に制作されたプロモーション用デモ音源。 |
| 2002 | Fairy Tale | Single | 大ヒットメロドラマの主題歌となり、バンドを国民的存在に押し上げた名曲。 |
| 2005 | Innocence | Single | Shaaman 名義でのリリース。『Reason』からのリードシングル。 |
| 2005 | More | Single | The Sisters of Mercy の名曲カバー。ゴシック・アプローチを強調。 |
| 2020 | Brand New Me | Single | Alirio Netto 加入後最初にリリースされた新曲。新生SHAMANの狼煙。 |
| 2020 | Turn Away (Live) | Single | 再結成後、サンパウロの Audio Clubで収録されたライブ音源。 |
| 2022 | The "I" Inside | Single | アルバム『Rescue』からの先行シングルおよびミュージックビデオ。 |
| 2022 | Thundering Heights | EP | ストリーミング向けにリリース。「Almost Supernatural」等、多彩なアンビエント要素を含む。 |
10. Conclusion
SHAMANが単にANGRAの派生バンドという枠組みに収まるものではなく、南米ヘヴィメタル史において独自の極めて重要な位置を占める独立した芸術的実体であったことを明確に示している。彼らは、クラシック音楽の荘厳さ、ヘヴィメタルの攻撃的エネルギー、そしてブラジル独自の民族音楽の複雑なリズム体系を見事に融合させることで、前人未到の音楽的境地を開拓した。デビューアルバム『Ritual』 (リチュアル) から最終作『Rescue』(レスキュー)に至るまで、彼らのディスコグラフィは一貫して高い音楽的知性とレジリエンス(回復力)を証明している。
バンドの歴史は、決して平坦なものではなかった。音楽業界特有のクリエイティブな方向性の対立、法的リスクに端を発する改名問題(Shaamanへの変更と回帰)、そして何よりも、絶対的なフロントマンであった Andre Matos (アンドレ・マトス)の突然の死という、バンドの存続を根底から揺るがす悲劇に見舞われた。しかし、その都度、彼らはメンバーの入れ替えや音楽性のアップデートを行いながら、不死鳥のように蘇り続けた。
最終的にこの偉大なバンドを崩壊させた要因が、音楽的な壁でもビジネス上の障壁でもなく、現代社会が直面する「極端な政治的分断と、それに伴う不寛容なヘイトスピーチ」であったという事実に、音楽がいかに社会情勢と密接に結びつき、またその影響を免れ得ないかを示す象徴的な事例であると言える。Ricardo Confessori (リカルド・コンフェッソーリ)の非倫理的な暴言に対して、Luis Mariutti (ルイス・マリウッティ)、Hugo Mariutti (ウーゴ・マリウッティ)、Alírio Netto (アリーリオ・ネット)らが即座に示した毅然とした拒絶の態度は、彼らが卓越した音楽技術だけでなく、人間としての高い倫理観と社会的責任を持続していたことを証明するものであった。
実体としてのSHAMANは終焉を迎えたものの、彼らが残した革新的なディスコグラフィ、熱狂的なライブ・パフォーマンスの数々、形成したブラジルのヘヴィメタルを世界のメインストリーム(日本のオリコンチャートや国民的テレビドラマ)にまで押し上げた歴史的功績は、未来のプログレッシブ・パワーメタル・シーンにおいて永遠に語り継がれ、研究され続けるべき無形の遺産である。