DIZZY MIZZ LIZZY TRIVIA
Trivia
『Alter Echo』に合わせた東京公演は、実現しなかった。日本盤は世界に先駆けて2020年3月18日に発売され、その5日後には4月23日の渋谷TSUTAYA O-EASTでの一夜限りの公演〈DIZZY MIZZ LIZZY SPECIAL LIVE IN TOKYO “ALTER ECHO NIGHT”〉が発表されていた。ティム・クリステンセンは、このタイミングで日本へ行くのは日本のソニーのアイディアだったと語っている。ところが3月19日に一般発売が延期、3月31日に公演延期、4月11日に中止が招聘元のクリエイティブマンから告知され、払い戻しは5月13日から7月31日までとなった。バンドが次に日本の舞台に立つのは、2023年9月である。
2010年の再結成来日公演は、日本にとって14年ぶりのDIZZY MIZZ LIZZYだった。初日は5月5日の名古屋エレクトリック・レディランド、開演は18時5分。1曲目は『Rotator』の幕開けを飾る「Thorn In My Pride」で、アンコールを含む19曲、約90分の公演は「Two Of You」で締めくくられている。3人はこのツアーのために2〜3か月のリハーサルを積んでおり、当時この再結成は一連のツアーで終わる予定だと伝えられていた。
2023年の来日公演の開演前、場内に流れていたのは日本のインストゥルメンタル・バンドMONOだった。ティム・クリステンセンとマーティン・ニールセンはこの数年インストゥルメンタル・バンドをよく聴いており、MONOのほかにtoeの名前も挙げている。そして初日の川崎公演には、MONOのメンバー本人が客席に来ていた。ティムはそれをとても光栄なことだと述べている。
DIZZY MIZZ LIZZYがこれまでに最も多くの公演を行なってきた国は母国デンマークで、その次に来るのが日本である。デビュー・アルバム30周年を記念する公演は、2024年11月にコペンハーゲンのロイヤル・アリーナで数万人規模のアリーナ・ツアーとして行なわれ、そこから9か月半ほどを経た2025年9月3日、東京・豊洲PITで一夜限りの日本公演として実現した。会場では、コペンハーゲンでの記念公演を撮影した写真を使った30周年記念フォトブックが、日本公演限定で販売されている。
デンマークで記録的に売れたデビュー作『Dizzy Mizz Lizzy』は、1993年から1994年にかけての冬に、コペンハーゲンのフォーカス・スタジオとグレイプハウス・スタジオという2つの場所で録音された。プロデュースはニック・フォスとバンドの共同名義、エンジニアはラース・オヴァゴー、ミックスはその2人にバンドを加えた形である。全曲の作曲はティム・クリステンセンで、アレンジはバンド名義。つまりこの作品は、外部のプロデューサーを迎えながらも、音の組み立てそのものは3人の手に残されていた。
2016年7月2日、DIZZY MIZZ LIZZYはデンマーク最大級のフェス、ロスキレ・フェスティヴァルの最終日にメイン格のオレンジ・ステージへ登場した。現地紙BTの評は最高点の6つ星。そしてこの日はティム・クリステンセンの42回目の誕生日でもあり、彼はかつてプロモーション写真で着ていた「42」の数字入りジャケットを自宅のクローゼットから探し出し、最前列の観客へ投げ入れている。楽屋にはケーキとシャンパンが用意され、マーティン・ニールセンとソーレン・フリスはワインを贈った。
『Alter Echo』の後半を占める5部構成の「Amelia」は、5曲をつないだものではなく、はじめから1つの曲として書かれた。最初にできたのは10分ほどの形で、そこから組み上げていくうちに23分近くまで伸びたのだという。ティム・クリステンセンにとってのアメリアは、長年のあいだに出会ってきた女性たちを下敷きにした人物で、自分の道を見失ったまま何とか進もうとしており、周りにはその道が見えているのに本人には見えないので助けられない——そういう像である。解釈は聴き手に委ねるとも言っており、レコーディング・エンジニアは今の世界の状態を擬人化したものだと受け取ったそうだ。
2023年の川崎CLUB CITTA'公演では、「67 Seas In Your Eyes」の途中にアイアン・メイデンが紛れ込んだ。初日は「Wasted Years」、二日目は「The Trooper」。ティム・クリステンセンによれば、あるセクションのメロディを弾いていて「Wasted Years」に似ていると思いつき弾き始めたところ、他の2人もその曲を知っていたので合わせてきた、というだけの話で、事前の計画ではなかった。ソーレン・フリスは、そのパートが来るたびにティムが何をやるつもりか考えさせられると話している。
7年ぶりとなった〈-THE ALTER ECHO- JAPAN TOUR 2023〉は、9月16日と17日の川崎CLUB CITTA'、19日の大阪BIG CAT、20日の名古屋Electric Lady Land、そして21日の渋谷CLUB QUATTROという5公演。初日は約100分だった。CLUB CITTA'のセットリストが決まったのは、ステージに出る2時間ほど前である。そして幕開けは、22分を超える組曲「Amelia」を頭から通して演奏するという選択だった。ティム・クリステンセンによれば、この曲をセットのどこに置くかは2年ほど議論が続いており、最終的に彼が1曲目に置くのが完璧に嵌まるという結論に達したのだという。
作詞まで全部ティム・クリステンセンひとりというわけではない。デビュー作では「Love Me A Little」「Hidden War」「Too Close To Stab」の3曲にトーマス・ロックウェルの追加詞が入り、『Rotator』では14曲中7曲——「Run」「11:07 PM」「I Like Surprises」「Take It Or Leave It」「Find My Way」「Two Of You」「Rise And Fall」——にニック・ワステルの追加詞が入っている。曲そのものはどちらのアルバムも全曲ティムの作である。
スタジオ4作を通して、ティム・クリステンセン以外の名前が「作曲」の側に載るのは3曲しかない。『Rotator』の「Thorn In My Pride」と「Back-Bone-Beat」、そして『Forward in Reverse』の「Fly Above The Radar」で、いずれもベースのマーティン・ニールセンによる追加音楽の名義である。うち「Thorn In My Pride」は、2010年の再結成公演でも2016年の来日公演でも演奏された曲だ。
2作目『Rotator』はロンドンのアビイ・ロード・スタジオで録られたことで知られるが、クレジットが挙げる録音場所はもう1つある。コペンハーゲンのグレイプハウス・スタジオで、デビュー作でも使われた部屋だ。時期は1995年から1996年にかけての冬。プロデュースはニック・フォスの単独名義になり、代わりにラース・オヴァゴーとティム・クリステンセンが共同プロデューサーとして加わった。デビュー作の「フォス+バンド」から、役割の分け方が変わっている。
2002年のベスト盤に収められて世に出たライヴ音源『Live In Aarhus '96』は、1996年5月11日にデンマークのオーフスで録音されたものである。全13曲のうち9曲目は、「For God's Sake」「Mother Nature's Recipe」「67 Seas In Your Eyes」を続けて演奏した14分42秒のメドレーで、1枚のライヴ盤の中でも突出して長い。録音はピーター・ブランダー、エンジニアはルーネ・ニッセン=ピーターセンが担当した。
20年ぶりのスタジオ作『Forward in Reverse』は、2014年12月から2016年1月にかけて、デンマーク・リーベのハンセン・スタジオで作られた。プロデュース・録音・ミックスをヤコブ・ハンセンが手がけ、共同プロデューサーとしてティム・クリステンセンとニック・フォスが並んでいる。フォスは1994年のデビュー作と1996年の『Rotator』を手がけた人物で、20年の空白を挟んで復帰作の現場に戻ってきたことになる。マスタリングはヘルシンキのスヴァンテ・フォシュベック。
2017年12月に出たライヴ盤『Livegasm!』は、1本の公演の記録ではない。2016年に出演した3つのフェスから集められていて、7月2日のロスキレ・フェスティヴァル(デンマーク)が全15曲中12曲、6月24日のティンダーボックス・フェスティヴァル(同)が1曲、8月11日のモールロック・フェスティヴァル(ノルウェー)が2曲という内訳である。録音はダニエル・デヴァンティエ、ミックスはヤコブ・ハンセンが担当した。
『Alter Echo』は2019年8月から2020年1月にかけて、コペンハーゲンのカラー・ミル・スタジオでルーネ・ニッセン=ピーターセンの手により録音された。ミックスとマスタリングはリーベのハンセン・スタジオでヤコブ・ハンセンが担当。プロデュース欄に載るのはティム・クリステンセンの名前だけで、スタジオ4作の中で単独プロデュース名義はこれ1枚である。作詞はティムとマーカス・ウィンター=ジョンの連名になった。
ジャケットの担当は、1990年代と再結成後で綺麗に分かれている。1994年のデビュー作と1996年の『Rotator』はどちらも MandOverBord、2016年の『Forward in Reverse』と2020年の『Alter Echo』はどちらも yellow1.dk のポール・ウィルソン。ライヴ盤はまた別で、2017年の『Livegasm!』は Nutwood Nest のヴィベケ・ノズコウ、1996年のオーフス公演を収めた『Live In Aarhus '96』は Dan Christensen & Son の名義になっている。
長らく再発されてこなかったデビュー作『Dizzy Mizz Lizzy』と『Rotator』は、2025年9月3日にワーナーミュージック・ジャパンから新装版CDとして出た(WPCR-18754/WPCR-18755)。当時の日本盤に入っていたボーナス・トラックも同じく収録されている。同時発売の『ライヴ・イン・オーフス+ライヴ・イン・ジャパン』(WPCR-18756/7)は、2002年のベスト盤のDISC 2に入っていた1996年のオーフス公演を単独作品として初めて出し、1995年に日本だけで発売された初来日公演のライヴ盤と2枚組にしたもので、この組み合わせでの発売は世界初となった。3作とも全曲2010年リマスター音源で、この音源でのCD化は日本初である。
再結成後の2作には、90年代には無かった役職名が並んでいる。2016年の『Forward in Reverse』では lyrics consultancy(作詞の相談役)としてマーカス・ウィンター=ジョンの名前が載り、2020年の『Alter Echo』では作詞そのものがティム・クリステンセンとの連名になった。2017年のライヴ盤『Livegasm!』にも同じ肩書きで彼の名前がある。90年代の2作でトーマス・ロックウェルやニック・ワステルが担った「追加詞」という関わり方とは、書かれ方が変わっている。
セルフ・タイトルのデビュー作は、デンマークのロック・アルバムとして史上最も売れた1枚とされる。同国内では、メタリカが1991年に発表したいわゆるブラック・アルバム『Metallica』の売上をも上回っている。「一家に一枚」と言われるほど行き渡った作品であり、ここから複数のヒット・シングルが生まれた。
『Forward in Reverse』を携えた2016年のジャパン・ツアーは4都市5公演。5月14日の川崎CLUB CITTA'公演では、インストゥルメンタルの「Frey」をイントロダクションに、同じくインストの「Phlying Pharaoh」から始まり、冒頭4曲がアルバムの曲順そのままに進んだ。アンコールでは、当初のセットリストには入っていなかった『Rotator』の「Thorn In My Pride」が加えられ、公演は90分を超えた。
『Alter Echo』の制作は、まる1年ぶんの作業を捨てるところから始まっている。ティム・クリステンセンによれば、自前のリハーサル・スタジオで1年ほど新しいものを生み出そうとしたが、出来上がったものが1つも気に入らず、全部捨てて最初からやり直した。行き先が見えずメンバー全員が苛立っていたところで、ティムが「自分がプロデューサーをやって全体をリードしたい」と2人に切り出したのだという。そこから作品の形が見えはじめた——彼はそう振り返っている。
『Alter Echo』が10曲・約46分という寸法に収まっているのは偶然ではない。ティム・クリステンセンは、自分が一度に集中して聴いていられる長さの上限を45分前後だと考えており、アナログ盤のA面・B面のように片面22〜23分で分かれる形を意識して曲を並べたと語っている。さらに最後の曲は最初の曲へつながるように作られていて、通して聴くとループする。彼はこれをコンセプト・アルバムではなく「1ピース」のアルバムだと呼び、意図的に、曲を1曲単位で消費する今の聴かれ方への反動としてやったのだと述べている。
「Amelia」には約26分のミュージック・ビデオがあり、これは映像作品としては完全な短編映画で、初公開の場もデンマークのオーデンセ国際映画祭だった。2023年9月6日にソニーミュージックから出た日本独自企画盤『Alter Echo(Japan Tour Edition)』のDVDには、この「Amelia」に加えて「California Rain」「In The Blood」「The Middle」のビデオが収められ、「Amelia」だけは歌詞の対訳だけでなく俳優の台詞にも日本語字幕が付いた。
『Alter Echo』のインストゥルメンタル盤は、海外では2021年2月にアナログ盤のみ、2022年11月からはデジタル配信という形で出ていたが、CDになったのは2023年9月6日の日本盤(SICP 31632)が世界で初めてだった。単にヴォーカルを抜いただけの音源ではなく、インスト作品として通して聴けるよう10曲中5曲のバッキング・トラックに編集が加えられている。ジャケットも、オリジナルの黒地に白から白地に黒へ反転させてある。
『Alter Echo』のジャケットは、バンドがアイディアを1つも出せなかった初めての作品である。ティム・クリステンセンによれば、これまで多くのジャケットを手がけてきたデザイナーに全面的に任せ、アルバムを全曲聴かせて感じたことを形にしてほしいと頼んだ。1週間後に持ち込まれたのが、日食・月食に近いものを表そうとしたという案だった。宇宙的な壮大さと、同時にとてもロックであること——それが狙いだったのだという。クレジット上の担当は yellow1.dk のポール・ウィルソンで、前作『Forward in Reverse』のジャケットも同じ人物である。
『Alter Echo』の重さの出どころについて、ティム・クリステンセンはストーナー/スラッジ/ドゥーム・メタルとポスト・ロックをよく聴いていると語っている。名前を挙げたのがベル・ウィッチで、2017年のアルバム『Mirror Reaper』は約83分がまるごと1曲であり、それを聴くには83分間集中し続けなければならない——その状態そのものが面白いのだという。ヴォーカルの無い音楽を好むのは、声が曲の性格を決めてしまわないぶん、聴き手が自分で決められるからだと説明している。なお「California Rain」のミュージック・ビデオで彼が着ているのはペリカンのTシャツである。
『Alter Echo』はキーボードが多く入っているため、この曲群をライヴでやるには3人では足りなかった。2023年のジャパン・ツアーに4人目として加わったのがキーボードのアンダース・スティグ・モラーで、名前の綴りは Anders だが d は発音しない。適任者に心当たりが無かったバンドに彼を勧めたのは、自分たちのギター・テックだった。彼はハーモニー・ヴォーカルも重ねており、ティム・クリステンセンによればそれはこのバンドのライヴには従来無かった要素である。翌2024年、ティムのソロ来日公演にも彼は参加している。